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第六章
Ⅱ
しおりを挟む「はい、好きなの選んでくださいね。」
「あ、あぁ…」
ドーナツの箱を開いて、中身を見せる。
「コーヒーか紅茶、どっちがいいですか?」
「あ…コーヒー、で。」
「はい。」
龍海さんはソファに座って、じっとドーナツの箱の中身を見つめていた。
「はい、お待たせしました。」
「あぁ…」
龍海さんの目の前にコーヒーを置き、隣に座る。
龍海さんの体がビクリと動く。
あ、隣に座られるのは嫌だったか…
…その反応はなんかショックかもしれない。
少し離れた床に座ろうと腰を浮かすと、
「っ、ど、どこへ行く。」
龍海さんに腕を掴まれる。
腕に触れられるくらい、そんなに動揺しなくなった。
「えっと、少し離れて座ろうかと」
「なぜだ」
「ち、近いと龍海さん、嫌かなって…」
「嫌ではない!」
何をそんなに必死になっているんだ。
「そ、うですか…」
「……」
「あの、ドーナツどれにしますか?」
「…先に選べ。」
「え、私はどれでも」
「これじゃないのか。」
中にクリームが入ったドーナツが指差される。
ば、ばれた?
実はそのドーナツは食べないで欲しいと思っていたのが伝わっていた?
恥ずかしい…
「え、なんで、」
「クリームたっぷり、が、好きなんだろう」
そういえば、ケーキを買った日にそんな話をした。
「覚えていたんですか」
「……」
「ふふっ、そうなんです。これが一番好き。
ばれちゃって恥ずかしい。」
「……」
「お言葉に甘えて、いただきますね。
龍海さんはどれにしますか?」
「…これで。」
龍海さんが手に取ったのはチョコレートのドーナツだった。
見るからに甘そう。
「龍海さん、甘いもの好きなんですか?」
「…そうだな」
「クリームとかは?」
「…嫌いじゃない」
少し恥ずかしそうだ。
「そうだったんですか。
じゃあ私の、半分こしましょう」
「え、いや、」
「まぁまぁ」
「……」
ドーナツを二つに割る。
クリームが溢れる。
少し大きい方をはい、と龍海さんに渡した。
「いただきます」
「……」
ドーナツにかぶりつく。
溢れたクリームが頬に少しついた。
ぬぐい取ってクリームがついた指先を舐める。
龍海さんの視線を感じる。
…まずい、行儀が悪い女だと思われたかもしれない。
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