本当は、愛してる

双子のたまご

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第四章

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「ここ…」

連れてこられたのは、以前来た回転寿司店だった。
ただし、別のチェーン店。
紅と一緒に行っていた店とは違う場所にある。
数駅離れたところまできて、前と同じ店とは…
もちろん、文句なんてあるはずもないけれど。

紅を忘れたくないと言いつつ、紅との思い出が色濃いものと触れるのは辛い。
加えて龍海さんとは一騒動あったお店。
少し緊張する私に、入るぞ、と声をかけて龍海さんが先へ進む。





「好きなだけ食え」

龍海さんはあの日と同じ台詞を吐く。
何の拷問か。
龍海さん、気にしているというか、根に持っているのか?
助けてもらったことと久しぶりにあった懐かしさに、龍海さんへの不信感が混じり始める。
そんなことを思いながらメニュー画面を触る。



「…あ。」



デザートのページを見た。
冷凍マンゴーが、ある。
なんで、と口に出す前に龍海さんが声を発した。

「店によって違うそうだ。」

「え?」

「揃えられているネタが、違うそうだ。
妹と一緒に行っていた寿司屋では、冷凍マンゴーはもうないらしい。
でも他の店舗にはあると言っていた。」

龍海さんが一息でこんなに喋るのを見るのは初めてだ。

「…誰が、言っていたんですか…」

「…前に一緒に行った寿司屋の店長だ。」

「いつ、聞いたんですか…?」

「先に帰った理由を聞いた日だ。」

「…わざわざ、聞きに行ったんですか。」

「……そうだ。」

「冷凍マンゴーがあるお店も、探して…?」

「……あぁ。」

こんなに仏頂面で、いつもスーツを着たお堅そうな男が、どこにでもあるチェーン店に冷凍マンゴーは無いのか、と聞いた…
この男の口から、冷凍マンゴー…

龍海さんも照れているのだろうか。
目は相変わらずあわない。
耳が、少し、赤い。

「…ふふ。」

タクシーの中よりも、確実に相手に伝わっているであろうボリュームで笑いがこぼれた。
面白い、と思って笑うのは久しぶりだ。

「ふふふ……ありがとう、ございます。」

「……」

龍海さんが居心地悪そうに座り直す。
まだ少し笑いながら、メニュー表を眺める。

「…消えていない。」

「え…?」

「妹は消えていない。」





『紅が…っ、消えていく感じがしました…』





「そう簡単に消えてはいかない。」

「っ…!」

一気に涙が込み上げる。
慌てて下を向いて、こぼれる涙が龍海さんに見えないようにした。

「……はい…」

「…早く頼め。」

涙で滲んだ画面を見る。
私はフルーツが好きなわけじゃない。
マンゴーなんてちょっとマイナーなんじゃないかと思っているし。
だから私も食べてみようとはならなかった。
でも…



一皿目でマンゴー。紅と同じ。
口にいれる。
思っていたより甘い。
あとは、冷凍庫から出したばかりなのか、少し固い。



『あっこれちょっと固い。ちょっと冷まそう』

『冷ますではなくない?』

『あはっ、間違えた!
じゃあその間に茶碗蒸しでも頼みますか~』

『寿司はいつ食べるの、寿司は。』



紅との会話を思い出す。

「うまいか。」

龍海さんが問いかける。

「…はい、美味しいです。」

そうか、と龍海さんが微笑んだ気がした。
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