本当は、愛してる

双子のたまご

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第三章

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間に入ってきたのは龍海さんだった。
見知った顔に安堵する。

「…なに。おにーさん、関係なくない?」

このナンパ師、龍海さんに対抗する気か。
やめておいた方がいい。この人マフィアですよ。
安堵からか、逆に相手への心配が出てきた。

「…なんだと」

「だから~部外者が首突っ込むなって言ってんの。」

だから止めときなって。

「部外者ではない。」

「じゃあ何。」

えっと、と私が言いよどむ前に
間髪いれず龍海さんが答えた。

「恋人だ。」

………え

「はぁ?さっき彼氏いないって」

「彼女にはもう関わらないでくれ」

そう言って龍海さんは私の手を引く。
さっきまで硬直していた足は、いきなりの方向転換に着いていけず躓きそうになる。
ナンパ師との距離はどんどん遠ざかる。

「あの、た、龍海さん…」

「……」

答えてくれない。
足を止める気配はない。
自宅の方向へ向かっているわけでもない。
どこに連れていかれるのか分からない。
でも不安ではなかった。
いつかの日のように背中を見て歩く。
いつもと違う繋がれた手は少し、汗をかいていた。







途中で龍海さんはタクシーを捕まえた。
本当にどこに連れていかれるのか。

「あの…」

「……」

まだ話す気はなさそうだ。
龍海さんは窓の外の流れる景色を見ている。

「あの、ありがとうございました。」

でもお礼は早めに伝えた方がいい。

「ご迷惑おかけしてすみませんでした。
あんな、その…恋人、とか、嘘までつかせて…」

思い返すと恥ずかしくなってくる。
いや、龍海さんはあれが一番あの場を早く切り上げられる言葉だと思って使っただけだ。
事実でないことを恥ずかしがるのもおかしい。
しかし、これまで恋人など居たことがなかったのだ。
それが今日、嘘であっても誰かに自分が『恋人だ』と紹介されるシチュエーションが出来てしまった。
やっぱり恥ずかしい。あと申し訳ない。

「……気にしなくていい」

ボソリと、龍海さんが答えた。
やっと聞けた声にほっとする。

「…お久しぶりですね。」

「…あぁ。」

「獅音さんもお元気ですか?」

「……あぁ。」

この人は、相変わらず相槌しか打たないな。
懐かしさに、クスリと笑いが漏れた。
笑ってしまったことを怒られるかとハッとしたが、龍海さんは相変わらず窓の外を見ていた。
気づいていないようだ。

「…ところで、どこに向かっているんですか。」

「…………食事に。」

「え?」

「……」

…食事。
龍海さんとの食事の思い出は、なにも食べずに帰ってしまったあの日が最初で最後。

『あいつ、ああ見えて気にしすぎるタイプだから。』

獅音さんが言っていたことを思い出す。
まさか、あの日結局食事が出来なかったことを気にしていたのだろうか。
想像以上に気にするタイプだった。

「……はい。」

ちょうどいい。
ナンパから助けてもらったお礼にご馳走しよう。
獅音さんは結局最後まで私にお金を出させなかったなぁ…
獅音さんの分も龍海さんに沢山食べてもらおう。
テイクアウトのあるお店だったら、獅音さんの分も包んでもらえばいいか。

私も窓の外に目をやった。
案内標識が見える。
私の居住地から二駅ほど離れたようだった。
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