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第三章
Ⅲ
しおりを挟む「……」
「…お疲れ様、です…」
気まずい。
龍海さんと一緒にいるときに、気まずい以外の感想になったことがない。
「この前は…」
「この前は、すみませんでした。」
龍海さんが何か言う前に謝る。
どうせ会うのも今日で終わり。
後腐れなく、というのは獅音さんに同感だ。
「…なぜ、謝る」
「せっかく食事に連れていってくださったのに、途中で帰ってしまって…」
「寿司は嫌いじゃないと言っていた。」
「はい、でも気分が…」
「メニューを見る前までは、体調が悪そうには見えなかった。」
まただ。
いつの間にか見られている。
「あ…」
「…理由が知りたい。兄さんとは食事に行っていただろう。」
「えっと…」
「俺と食事はそんなに嫌だったか。」
「そうじゃないです!」
龍海さんが目を見開く。
「…理由を教えて欲しい。」
「……」
「……」
「…紅が、あの回転寿司屋さんが…好き、で…」
「……」
「デザートの、冷凍マンゴーが…一番好きで、よく食べてました…」
声が震える。
「でも…この前行ったとき、無くなってたっ…」
ぐっと何かが込み上げる。
『え~どうしよう、もう一つ食べようかな…
え、食べていい?ちょっと高いよね…』
『気にしなくていいよ、紅。』
『んふふ~、じゃあもう一つだけ!』
紅との思い出。
思い出すことも減った気がする。
「紅が…っ、消えていく感じがしました…
私には、紅しかいないのに…
紅を…紅…」
「…妹のことを、思い出させてしまったのか。
すまない、気晴らしになるかと…」
気晴らし?そういうことか。
獅音さんも…
「気が晴れることなんて、もうないですよ…
それに、妹のこと忘れたいわけじゃないです。」
龍海さんの顔を見る。
焦っている?初めて見る顔だ…
「俺は…」
「ごめんなさい。
こんなことを言われても…ですよね。」
「俺、は…」
「獅音さんから聞いてますか?
もうお迎えは大丈夫です。
今までありがとうございました。」
伝えるべきことは伝えた。
龍海さんも理由が知れてすっきりしただろう。
「…さようなら。
獅音さんにもよろしくお伝えください。」
明日からまた、一人で生きる日常が始まる。
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