本当は、愛してる

笹 司

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第三章

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「何か食べたいものはあるか」

「え…」

どこか遠くを見ながら龍海さんが言う。
私に、言っているのか…

「えっと…」

「何がいい」

「……」

「…寿司でも行くか。」

龍海さんが歩き出す。
正直お断りしたい。気まずい。
でも獅音さんのように引っ張って引き留めるとか、そんなことはできない。
今日は諦めよう、と龍海さんを見る。
数歩先で立ち止まった龍海さんが、こちらを見ていた。







あの兄の弟なのだから、高い店に連れていかれて申し訳なさにも押し潰されることになるかと思った。
しかし、予想と反して意外にもチェーン店に連れていかれた。
紅とよく行っていたチェーンの寿司屋。
一人で行くことはない。

「好きなだけ食え」

「はぁ…」

注文のタブレットを渡してくる。

「…寿司は好きじゃないのか」

「…そんなことないですよ」

「…そうか。」

タブレットを触って一通りメニューを見る。
紅が好きだったものばかりが目に入る。
デザートのページを見て、手が止まった。

「…無い…」

「なんだ?」

冷凍マンゴーが、ない。
いつの間に無くなったのだろう。
少しずつ、紅が消えていく感じがした。

「…帰ります。」

「っ、おい、」

「すみません。ちょっと気分が…
龍海さんはゆっくりなさってくださいね。
もう家もすぐそこですし、一人で大丈夫です。」

「ちょっと待て、」

「今日もありがとうございました。
失礼します。」

荷物を持って席を立つ。
最近は獅音さんと龍海さんがいる生活に慣れすぎた。
二人が居ることが当たり前になっている。
違う。私の当たり前は紅だ。
…早く、家に帰りたい。
胸元のエメラルドのネックレスに触れる。
なぜ今日に限ってヒールなんか履いてしまったのか。
音が、頭に響く。
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