観客席の、わたし

双子のたまご

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第十章

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「…獅音さん」

獅音さんがなんとも言えない顔で、そこに立っていた。

「誰」

気まずい私たちの間で、颯馬さんだけが声を発する。

「なぁ、もしかして奏さんの彼氏?」

颯馬さんが獅音さんを睨み付けながらそう言う。
獅音さんは何も答えない。

「ちょ、ちょっと。
颯馬さんやめてください。」

「なんか言えば?
奏さん、アンタと付き合うのしんどそうなんだけど。」

そのまま颯馬さんが獅音さんに突っかかっていく。

「彼氏ですって胸張って言えないなら別れたら?」

「颯馬さん!!」

「僕…」

固まったままの獅音さん。
獅音さんを責める颯馬さん。
どうにかしないと。

「奏さん、なんでこんなハッキリしてないやつのことがいいの?
こいつが奏さんのこと幸せにできると思えない。」

頭にかっと血がのぼった。





「獅音さんのことが好きだからです!!」




二人が同時に私の方を向く。
獅音さんの方が、驚いた顔をしていた。

「…獅音さんのことが好きだから、お付き合いをしています。
獅音さんが私のことを幸せにしてくれるから付き合ってるんじゃないです。」

「…」

「…」

「別れることになっても、颯馬さんとはお付き合いできません。
ごめんなさい。」



しばらく、沈黙が続く。
それから



「…はは。」

颯馬さんが乾いた笑いを浮かべて

「俺、だっさ…」

そう言ったかと思うと、もと来た道を引き返していった。




「…」

「…」

「…獅音さん。」

「……うん。」

「うちに来ませんか?
話がしたいです。」

「…うん。」

獅音さんは返事をしてくれたけど、どこか上の空だった。










「獅音さん?座ってください。」

「うん…」

獅音さんはふらふらとソファへ向かって座った。

「獅音さん、大丈夫ですか?
体調悪いですか?」

ソファに座った獅音さんの足元にしゃがんで顔を覗き込む。
頬が少し赤くて目も潤んでいる気がする。
熱でもあるのか?
昨日、しばらく走り回って私のことを探していたと琥珀は言っていた。
寒空の下走らせて、風邪ひいちゃったのかな。
本当に申し訳ない。
謝らないと。

「ううん…」

「温かいもの飲みますか?」

「奏ちゃん、僕のこと好きなの?」

一瞬、時が止まった。

本当は昨日のことをまず謝って、
それからこれまでの話をして、
気持ちを伝えて、
これからの話が出来ればと思っていたけれど。
そんなことすっ飛ばして、今、気持ちを伝えなければと思った。



「…好きです。」

「…本当に?」

「はい。」

「…そっかぁ…」


これ…は、どういうリアクションなんだろうか。
すごく不安になってきた。
もう一度顔を覗き込もうとしたとき、


「っ、わぁ!」


急に腕をひかれて引き上げられる。
そのままソファに座っている獅音さんの上に倒れこんだ。
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