観客席の、わたし

笹 司

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第十章

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「引き留めちゃってごめんなさいね~」

「いえ、こちらこそ。
少しだけと言いつつ沢山お話聞いていただいて…」

気づけば一時間もお話に付き合って貰っていた。

「良かったら一緒にクリスマスパーティー参加していきます?」

「いえそれは流石に…
それに、私、彼に伝えなくちゃいけないことが沢山あるんです。」

「…そうね!」

お母さんは嬉しそうに笑っていた。











和泉君の家を出て、急いで家に帰る。
昨日は結局、獅音さんからの連絡を無視したまま。
琥珀から連絡が来てからは、獅音さんからの連絡はピタリと止まった。

今日は獅音さんから電話がかかってくるだろうか。
かかってこないなら私からかけよう。
出てくれるかな。
出てくれないかも。
出来れば会って話がしたい。

まずは昨日のことを謝らないと。
それに、今まで獅音さんが私にしてきてくれたことにお礼を言いたい。
獅音さんは何故、私のことが分からないと思ったのか知りたい。
獅音さんが大事にしたいことは何なのか知りたい。
それから、それから…




獅音さん。

あなたのことが、好きと、伝えたい。











「っ、奏さん!」




振り返ると、颯馬さんがいた。
走ってきたようだった。



「颯馬さん?」

「っはぁ、あ、あの…」

何か私忘れ物でもしちゃってたのかな。
届けに来てくれたんだろうか。

「どうしたんですか?
私、何か忘れ物しちゃってました?」

「…ちがう」

それなら何だろう。
颯馬さん、いつも私が急いでるときに呼び止めてくる。

「あの、颯馬さん、私急いでて」

「カレシに会うから?」

なんだか語気が強い気がする。

「会うっていうか…」

「うまくいってないのにまだその人と付き合うの?」

何故、颯馬さんはこんなことを言い出しているのか。

「…うまくいってないのは、私の努力が足りなかったからです。」

「恋人同士で努力しなくちゃいけないっておかしくない?
奏さんが頑張らなくちゃいけないなんて、付き合っててしんどくない?」

だんだんイライラしてきた。

「どうしてそんなこと、颯馬さんに言われなくちゃいけないんですか?」

そう口にした瞬間、颯馬さんが目を見開いた。
そして、



「好きだから!奏さんのことが!」



「…え」





呆気にとられている私をそのままに、颯馬さんが話続ける。

「なんかずっと良いなって思ってたのに、なんか急に綺麗になって!
焦ってご飯誘ったらいつの間にか彼氏出来てるし!
でもうまくいってなさそうだし、奏さんしんどそうだし!
俺の方が幸せにできる!」

正直、好きとか以前に5つも年下の大学生をそういう目で見たことがなかった。
どうしたものかと固まっていると、




「…奏ちゃん?」




私を呼ぶ、静かな声が聞こえた。
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