観客席の、わたし

笹 司

文字の大きさ
上 下
45 / 53
第九章

しおりを挟む

「はい、どうぞ~」

「あ、ありがとうございます…」

押しきられて、しまった…

「あの、和泉君は…」

「あぁ~大丈夫ですよ!
もうすぐ颯馬が来るので。
それまでは宿題すると思うし…」

「そう、ですか…」

出された紅茶に口をつけると、インターホンが鳴った。

「あ、ちょうど来たみたい。
ちょっと待っててくださいね。」

お母さんが鍵を開けにいく。

「紘~来たぞ~…っと、
…奏さん」

「こんにちは。」

「はいはい、あんた紘の相手してて。
こっち来ないでよ。
双木先生と恋バナするんだから。」

「ちょ、」

「…分かった。」

お母さんはさっさと颯馬さんを追いやった。
そして向かいの席に座る。

「さて…ふふ。
双木先生とゆっくりお話ししてみたかったの。
さぁ、悩み相談をどうぞ?」

「えっと…あの、やっぱり保護者さんにこんな…」

「まぁまぁまぁまぁ。」

なんだか獅音さんや琥珀のような押しの強さを感じる。
そしてこのタイプは、引き下がらない。

「…じゃあ、少しだけ…」

目線をティーカップに落とす。
紅茶に移った自分の瞳がゆらゆらと揺れていた。














「なるほどねぇ…
好きじゃないときに押されて付き合って、
だんだん好きになって、
それなのにそれを無理してると思われて…
う~ん…」

「自分勝手ですよね…
私も自分の思考がもうよく分からなくて…
どうすればいいのか…」

「自分勝手ですかね?
私も始めは旦那とノリで付き合ってましたよ。」

「え?」

「大学の同じサークルだったんですけど、飲み会で隣になることが多くて。
で、彼氏欲しい~って話したらじゃあ俺と付き合う?って」

「…なる、ほど?」

「だから別に、付き合った後に気持ちが出てきても、自分勝手ではないと思います。」

…まぁ、考えてみれば、お見合いなどは最たる例か。

「…そうかもしれないですね。」

「双木先生は、何が嫌だなぁって思ったんですか?」

「…自分の気持ちを疑われたこと?
でもそれは、当初の私もそうだったので」

「双木先生は、相手の方に好きって言ったんですか?」

獅音さんに、好き、と…

「はっきりとは…」

「双木先生は、相手の方が双木先生のことを気遣ってくれていると感じたんですよね。
それは好意があるからだと思った。
だから自分も同じように相手を気遣って知ろうとすることで気持ちを伝えようとした…
あってます?」

振り返ってみると、そうかもしれない。
小さく頷くと、




「あのね、それ多分伝わってないと思います。」




そう言われた私を一言で表すと「がーん!」って感じだったと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...