観客席の、わたし

笹 司

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第九章

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「では、今日もありがとうございました。」

「ありがとうございました~」

翌日、月曜日。
いつも通り仕事をこなす。
クリスマスイブ。

「和泉君、クリスマスプレゼントは何?」

「ゲームだよ!新作のやつ。」

「サンタさんが来て羨ましいなぁ。」

「先生はプレゼント貰えないの?」

「もう大人になったからサンタさん来なくなっちゃったの。」

「えぇ…かわいそう…」

サンタの正体を知るときまで、あとどれくらいだろうか。
和泉君が後片付けをしている間にお母さんのもとへ今日の分の授業の報告に行く。

「クリスマスということで、ちょっとソワソワして集中力はあまり無かったですけど、最後までよく頑張っていました。」

「あの子、最後まで迷っててサンタへのお手紙書いたの二週間前なんです。
サンタさん、クリスマスには間に合わないかもねって言ってあるんですよ~」

「それは…」

お母さんとお父さんが大変だ。
新作ゲームとなると、予約しておかないと手に入らないかも。

「…間に合いました?」

「…旦那がネット通販確認しまくって、なんとか。」

二人でクスクスと笑う。

「楽しいクリスマスになりますように。」

「先生こそ。
先生は恋人がサンタクロース?」

「え?」

急にそんなことを言ったお母さんにきょとんとしていると、いたずらっ子のような顔から焦った顔に変わって

「あ、あら。違った?
颯馬が、双木先生に恋人が出来たって落ち込んでて…」

と、言葉を続けた。
…なんで颯馬さんが落ち込むんだ。

「あぁ…」

「今日はクリスマスイブだから、この後はデートかしら?
それとも明日?
クリスマスに会うの?」

「いえ…今日も明日も普通に仕事で。」

「え?
あ、じゃあもうクリスマスデートは終わっちゃったの?」

「えぇ、まぁ…」

昨日のことを思い出す。
歯切れの悪い返事しか出来ない。

「ちょっと早めのクリスマスだったのね。
プレゼントは貰った?」

…プレゼント、渡せなかった。

「…」

「あ…やだ、ごめんなさい。
あの…双木先生っていつもクールだから、恋人とどんな感じなのかなって、気になって…」

「いえ、あの…」

思えば、パートナーがいる人の意見は聞いたことがないな。
世の中の恋人たちは、こんな時、どうしてるんだろう。
会いたいけど、気まずくて会えない時。
不安な時。
…別れるかもしれない、時。

「お付き合いした後に好きな気持ちに気づいたら、どうすればいいんでしょう…」

言った後にハッとした。
仕事中に、生徒の保護者に、なんてことを聞いているのか。

「あの、すみません、ちが、」

弁解しようとお母さんの方を見ると、何故か目をキラキラとさせ、

「先生、この後も他のご家庭で授業ある?
無いならお茶でも飲んでいきません?」

お茶に誘われた。
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