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第九章
Ⅰ
しおりを挟むコンビニに入って、適当にドリンクを手に取り会計をして、イートインスペースに座る。
携帯の電源をいれると、獅音さんからの着信とメール。
『奏ちゃんどこにいるの』
『電話出て』
『メールでもいいから返して』
『人がいる明るいところにいて』
既読をつけると、携帯が着信を知らせた。
…獅音さん。
電話にでたくない。
ぼーっと画面を見つめていると、着信音は止み、不在着信の数字がもうひとつ増えた。
いつの間にか止まっていた息を吐き、ペットボトルのドリンクに口をつける。
…苦い。
ペットボトルのラベルをよく見る。
「…まちがえた」
最近は獅音さんと一緒によく飲んでたけど、
私、やっぱり珈琲は苦手だな。
そのまま獅音さんの電話とメールをスルーし続けていると、琥珀から電話があった。
琥珀とも話す気にならず無視していると、メールがきた。
『とりあえず電話出なさい』
率直に気持ちを伝える。
『やだ』
すぐに既読がつく。
そしてまた着信。
スルー。
するとメール。
『心配だから一回出て。』
「…」
返信しないでいると、着信。
多分これは電話にでない限り続く。
あの子ならやりかねない。
通話ボタンを押し、携帯を耳に寄せる。
「…はい。」
『奏いまどこ?』
「コンビニ」
『どこの?』
琥珀の声に焦りが滲む。
かなり心配してくれていたんだと思う。
でも、
「…言いたくない。」
『…なんで?』
「琥珀に言ったら獅音さんが来るんでしょ」
『会いたくないの?』
「合わせる顔がない。」
『あんた達は揃いも揃って…』
電話の向こうから、はぁ、と大きなため息が聞こえる。
『…獅音兄さん、多分まだ奏の家の周り探してると思う。
会いたくないなら、もう帰ってくるように言うから。
その間に家に帰って。』
前も似たことがあった。
家に来ないように琥珀から獅音さんに伝えてもらったのに、獅音さんは言うことを聞かなかった。
「…獅音さんは琥珀の言うこと聞かない。」
それだけ言うと、琥珀はいつのことを言っているのか分かったようだった。
『さすがに今回は素直に言うこと聞くと思うけど、まぁ念を押しておく。』
「…獅音さんが家に帰ることが確定したら私も帰る。」
『…わかった。
獅音兄さんと話しつけてくるから、まだそのまま店内にいて。』
琥珀はそう言って、電話を切った。
次に琥珀から着信があったのは10分後だった。
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