42 / 53
第九章
Ⅰ
しおりを挟むコンビニに入って、適当にドリンクを手に取り会計をして、イートインスペースに座る。
携帯の電源をいれると、獅音さんからの着信とメール。
『奏ちゃんどこにいるの』
『電話出て』
『メールでもいいから返して』
『人がいる明るいところにいて』
既読をつけると、携帯が着信を知らせた。
…獅音さん。
電話にでたくない。
ぼーっと画面を見つめていると、着信音は止み、不在着信の数字がもうひとつ増えた。
いつの間にか止まっていた息を吐き、ペットボトルのドリンクに口をつける。
…苦い。
ペットボトルのラベルをよく見る。
「…まちがえた」
最近は獅音さんと一緒によく飲んでたけど、
私、やっぱり珈琲は苦手だな。
そのまま獅音さんの電話とメールをスルーし続けていると、琥珀から電話があった。
琥珀とも話す気にならず無視していると、メールがきた。
『とりあえず電話出なさい』
率直に気持ちを伝える。
『やだ』
すぐに既読がつく。
そしてまた着信。
スルー。
するとメール。
『心配だから一回出て。』
「…」
返信しないでいると、着信。
多分これは電話にでない限り続く。
あの子ならやりかねない。
通話ボタンを押し、携帯を耳に寄せる。
「…はい。」
『奏いまどこ?』
「コンビニ」
『どこの?』
琥珀の声に焦りが滲む。
かなり心配してくれていたんだと思う。
でも、
「…言いたくない。」
『…なんで?』
「琥珀に言ったら獅音さんが来るんでしょ」
『会いたくないの?』
「合わせる顔がない。」
『あんた達は揃いも揃って…』
電話の向こうから、はぁ、と大きなため息が聞こえる。
『…獅音兄さん、多分まだ奏の家の周り探してると思う。
会いたくないなら、もう帰ってくるように言うから。
その間に家に帰って。』
前も似たことがあった。
家に来ないように琥珀から獅音さんに伝えてもらったのに、獅音さんは言うことを聞かなかった。
「…獅音さんは琥珀の言うこと聞かない。」
それだけ言うと、琥珀はいつのことを言っているのか分かったようだった。
『さすがに今回は素直に言うこと聞くと思うけど、まぁ念を押しておく。』
「…獅音さんが家に帰ることが確定したら私も帰る。」
『…わかった。
獅音兄さんと話しつけてくるから、まだそのまま店内にいて。』
琥珀はそう言って、電話を切った。
次に琥珀から着信があったのは10分後だった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる