観客席の、わたし

双子のたまご

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第八章

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いつまでも当たり障りの無い会話。
こうなったのは私のせいだと思うけど。
獅音さん、何も教えてくれない。
…獅音さんは私のことなんかどうでもよくなっちゃったのかな。
興味がなくなっちゃったのかな。
好きじゃなくなっちゃったのかな。

そんなことを考え始める。
獅音さんと一緒にいるのに、一人で飲んでいるような気分になっている。
一人で飲んでいるときのように、色々と考えてしまっている。
獅音さんは飲んでいるんだろうか。
チラリと獅音さんの手元を見る。

ワインはほとんど減っていなかった。






ぴたり、と思考が停止した。






「…ワインは好きじゃないですか。」

質問のようなそうでないような、ぼそりと呟いた言葉は喧騒に書き消された。
でも私が何か言ったことに、獅音さんは気づいたようだった。

「ん?ごめん、どうしたの?」

今度は獅音さんの目を見て口を開く。

「ワインは好きじゃなかったですか?
無理して飲んでらっしゃるんですか?」

「…そんなことないよ、熱くて」

「もう冷めてるでしょう。」

「えっ、と…」

獅音さんが気まずそうに目をそらす。

「…獅音さんが私に無理しないで欲しいって言ってくれたように、私も獅音さんに無理して欲しくないんです。」

「無理なんてしてないよ」

「私も無理なんかしてないです…!」

かっと頭に血がのぼる。
思っていたより大きな声が出たみたい。
側にいる人々の視線が刺さる。
今の私は、冷静じゃない。

「…今日はもう帰ります。」

「…え」

振り返り人波を縫うように、もと来た道を進む。

「奏ちゃん!」

獅音さんの声が聞こえる。
この人混みのなか、飲み物の入ったコップを持った獅音さんはすぐに追い付くことは出来ないだろう。
振り返ることもなく歩き続けた。









賑やかなクリスマスマーケットの雰囲気から抜け出してそのまままっすぐ家へ向かう。
冷たい冬の冷気が頬に触れる。


…ワイン程度でこんなに怒って、馬鹿みたい。
何をこんなに怒っているんだろう。


わけの分からぬまま、獅音さんのことを考え続ける。
アルコールが入った上、カッとした頭ではこれ以上考えられない。
今の状態で何か考えても、良い方向に行くとは思えない。
早く家に帰ろう。
お風呂に入って、寝る。
早く、早く…










「奏ちゃん!待って!」








…獅音さんの声。
一瞬、体が強張る。
それでも歩みは止めなかった。
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