観客席の、わたし

双子のたまご

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第八章

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「人が沢山ですね。」

「そうだねぇ。
ほら、手。繋ご。」

獅音さんの手を取り、人混みへ歩き出す。
もうクリスマス目前の週末。
約束通り、クリスマスマーケットに来ている。

「まずはどこから行く?」

「何か食べません?お腹ペコペコです。」

あちこちから美味しそうな香りがする。
フードもあるが、もちろんお酒もある。

「獅音さんはお酒飲む人ですか?」

「付き合い程度にはね。
奏ちゃんは?」

「弱いですけど、たまに飲みます。
けど、一人で飲むのは苦手ですね。
なんか色々考えちゃって…」

「そうなんだ。
今日は僕がいるから飲む?」

基本的にお酒を飲むかどうかは相手に合わせている。

「獅音さんが飲むなら、飲もうかな。」

「…僕のことは気にしなくていいんだよ。」

…まただ。
獅音さんはどうしたいんだろう。
今、何を考えているんだろう。

「…一緒に飲みません?」

「…そうだね。じゃあ僕も飲むよ。
ホットワインにする?ビール?」

「私、ビール飲めなくて…ワインにします。」

「分かった。
…すみません、ホットワイン二つ。」

獅音さんが遠慮してるのか、はぐらかしているのか分からないと思っていた。
でもこれは、はぐらかされているのかもしれない。
なんとなく、よそよそしい。

「はい、どうぞ。」

獅音さんがワインを手渡してくれる。

「ありがとうございます。」

湯気のたつカップに口をつけ、一口。

「温かいですね。」

「そうだね。美味しい?」

「はい。」

「良かった。お店見て回ろう?」

ワインが溢れないように、両手でカップを持っているから手を繋ごうとは言われなかった。









お店を回る間、話は途切れなかった。
でも、



「何食べますか?
甘いもの?しょっぱいもの?」

「奏ちゃんはどっちが食べたい?」

「どっちも捨てがたい…
獅音さんはどっちの気分ですか?」

「う~ん…」

食の好みを探ろうとして、結果困らせた。
前回と同じ轍を踏んでしまった。




「このマグカップ可愛いですね。
新しいの買おうかな。
獅音さんはどれがいいですか?」

「僕?」

「はい。
獅音さんの分も買いたくて。
一緒にうちで使いましょう。」

「…うん。だったら僕が買うよ。
奏ちゃんが好きなの選んで。」

「獅音さんは」

「奏ちゃんが選んだのがいいな。」

結局、私が選んで獅音さんが買った。




久しぶりに外のデート。
獅音さんのことをもっと知りたいけど尽く玉砕している気配。
焦りでワインを口に運ぶ回数が増える。
ふとコップに目をやるとワインはほぼ無くなっていた。
酔いが回っていると感じる。


妙に気持ちが落ち着いている。
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