観客席の、わたし

笹 司

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第七章

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「獅音さんは、どんなものが好きなんですか?」

「ふふ、プレゼントの下調べ?」

「そうですね…」

何をプレゼントすればいいのか、今のところまったく分からない。
でも、獅音さんに喜んでもらいたい。

「お休みの日、何してるんですか?」

「お休みの日は奏ちゃんに会ってる。」

「私に会っていないときは?
趣味はなんですか?」

「趣味かぁ。特にないかな。
仕事とプライベートの境があんまり無いからさ、
僕の生活は仕事するか奏ちゃんに会うか、だね。」

「好きな食べ物とかは?」

「なんでも食べるよ。」

「集めてるものあります?」

「無いねぇ…」

駄目だ、私も情報収集下手すぎる。
獅音さんからも明確な答えは返ってこない。

「…ごめんね」

「え?」

「あんまり参考にならないよね。」

…違う。
私が普段の獅音さんのことをちゃんと見れてなかったから。

だから、あなたのこと、何も知らない。















「ってことで、今凄く獅音さんに申し訳ない。」

「それで妹である私から色々聞こうと?
なるほど、それで焼き肉奢りですか~
分かってらっしゃる。」

琥珀がトングをカチカチと鳴らす。

「正直獅音さんの答えが本心なのか、私に遠慮してはぐらかしているのかも、私には分からない。」

「ふむ…」

「琥珀に聞くのはフェアじゃないけど、」

「いやまぁ獅音兄さんも私に色々聞いてきたことあったから」

「え?」

「おっとぉ…
いやいや、ご飯行く前にアレルギーとか無いかな?とかそんな感じよ?」

…どこまでも、私のことを気遣ってくれていたんだなと思う。

「何あげても喜ぶと思うけど。
それに、まずは自分で聞いてみたんでしょ?
それだけで獅音兄さんは嬉しかったと思うけどなぁ。
あ、これもう食べていいよ。」

お皿にタンがのせられる。

「…獅音さんはいつも私のことを、気にかけてくれてたんだって感じることが多いの。今も。」

「うん。」

「思えば一番はじめから。
琥珀の家に行く時はいつもティラミス買ってきてたよねって。
だから甘いものが好きか、琥珀に聞いたって…」

「あぁ、そういえば聞かれたことあるわ。」

「生徒の家の犬が可愛いって言ったら犬カフェ連れていってくれたり、
寒くて体調崩しがちになったらお土産に温かいもの買ってきてくれたり…」

「…」

「でも私、何も知らない。
獅音さんも甘いもの好きなのか、
犬は嫌いじゃないか、
獅音さんは体調が悪いとき何をしたら元気になるのか…なんにも。
知らないだけじゃなくて、気にしたこともなかった。」

ほぼ毎日声を聞いて、毎週隣にいてくれる。
私の生活に獅音さんが入ってきて、私達は近づいているように思ってた。
でも、そんなことはないのかも。

「獅音さんのこと、意識し始めたからそういうことに気づき始めたのかもしれない。
だから、獅音さんのこと知ろうとしてみるけど、
この前…」

急に気持ちが溢れてくる。

「っ、無理しなくて、いいよって…
言われた、の。」

「…うん。」

「自分も、同じものを…返したいのに、
上手く、受け取ってもらえないこと、に、勝手に悲しく…なってる。
…自分勝手、だよね。
今まで…受け取ってばかりで、相手のことなんか、気にかけなかった、くせに…!」

ぽろぽろと涙がテーブルの上に落ちる。
何の涙か、分からない。

「…泣くなよぉ~、はい、肉。」

「…ぅ、」

「…奏も、獅音兄さんのこと大事に思ってくれてるんだなって安心したよ。
ありがと」

「…」

「…物よりも、奏の気持ちを伝えることの方がいいんじゃないかな、と私は思うよ。」

「…うん。分かった…」

「うん、はい、じゃあ食え!肉!」

「めっちゃ食べさせるじゃん…」

「私を焼き肉に誘ったことを後悔するんだな」

琥珀はあははと笑いながら、またトングをカチカチと鳴らした。
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