観客席の、わたし

笹 司

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第七章

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「どっちにする?」

獅音さんは言っていた通り、ケーキを買ってやってきた。
店のおすすめらしいロールケーキと、ビターチョコレートのムース。

「…獅音さんはどっちにしますか?」

「え…いや、僕はどっちでもいいよ。」

「甘いもの、好きですか?」

「普通に食べるよ。」

なんとなく、噛み合ってない会話。
獅音さんはいつも私のことを知ろうとして、私を優先してくれる。
私も獅音さんのことが知りたいのに…

「獅音さんはどっちの方が好きですか?」

「う~ん…」

困らせて、しまっている。

「…こっちの、ロールケーキいただきますね。」

「あ、うん。」

獅音さんがそう答えて、ケーキをお皿に移してくれる。
…ほっとしているように、見える。

「珈琲淹れますね。」

「ありがとう。」

キッチンに向かう。
…なんだか、悲しい。














「美味しいですね。」

「喜んでもらえて良かった。」

いつも通り、穏やかな時間が流れている。

『街はすっかりクリスマスムードです。
クリスマスマーケットも例年より多くの店舗が出店予定です。
今回は初出店の…』

適当につけていたテレビからお昼の情報番組が流れていた。

「…もうクリスマス。早いですね。」

「そうだね。」

今年のクリスマス当日は平日。
私は普通に仕事だし、獅音さんと会うのはいつも週末だから当日に会うことは無いだろうな。
でも…

「…何か、クリスマスらしいことします?」

「奏ちゃんは何かしたいことある?」

「う~ん…ケーキ食べるくらいしか…
あっ、今と変わらないですね。」

「ふふっ。そうだね。
…クリスマスマーケット、行く?」

獅音さんがテレビを指差して言う。

「…行ってみたい、かも。
私、行ったことないです。」

「じゃあ一緒に行こう。
僕も行ったことないんだ。」

最近はずっと家デート。
家の方が落ち着くけれど、外でデートもいざとなると少しわくわくする。
他に、何か出来ることはないかな。

「…あ。」

「ん?」

「プレゼント交換もしてみません?」

獅音さんのことを知るいい機会かもしれない。

「何か欲しいものがあるの?」

「そういうわけじゃないんですけど…
お互いに選んでみる、のは、どうでしょう…?」

獅音さん、別にプレゼント交換とかしたくないだろうか。
これまで私から何かを提案することってほぼ無かった。
難しい。
獅音さんはこんな風に毎回私のことを考えてくれていたのか。

「いいよ。やろう。」

「…いいんですか?」

「うん。奏ちゃんからのプレゼント、楽しみ。
でも無理はしないでね。」

「あ、じゃあ予算決めましょう。」

しっかりしてるなぁ、と、獅音さんは笑った。
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