33 / 53
第七章
Ⅱ
しおりを挟む自分が持っている赤ペンが、解答用紙の上をすべる。
「…和泉君、惜しい!90点!」
「むぅ~…」
返した解答用紙を見て生徒の和泉君が顔をしかめる。
「ここ、難しかった?」
応用問題が手付かずのまま、白紙で出されていた箇所を指差す。
「うん。分かんなかった。
これ計算できないよ、先生。
問題がまちがってる。」
子どもはたまにとんでもない持論を述べる。
可愛くて面白いところだ。
「間違ってません。ここは…」
順を追って話すと、理解できたようだった。
「算数は何かしら答えが出るから。粘ってみて。」
広く数学、として考えれば、答えがでないものもあるかもしれない。
数学者じゃないから分からないけど。
でも1+1=2。それは決まっているもの。
答えが決まっているものが多い。
算数のいいところだと思う。
「じゃあ今日はあと一枚プリントしたら終わりまーす。」
「え~もう疲れた。」
「はいはい。」
算数みたいに、気持ちも数式で答えが決まればいいのに。
獅音さんへの気持ちも、はっきりすればいいのに…
ふとそんなことを思って、はっとする。
仕事中に獅音さんのことを考えることなんて無かったのに。
これはよろしくない。
仕事に集中しなくては。
「終わった終わった。
せんせぇ~宿題は無しにしてください!」
「はーい、お疲れ様~
宿題はプリント三枚です~」
「ちぇ~」
和泉君はブーブー言いながら、なんだかんだやることはやる素直な子だ。
けれどもやっぱり段々生意気にもなってくる。
もうすぐ思春期かなぁ。
「じゃあ今日はこれで終わり。
先生帰るね。」
和泉君と一緒に勉強部屋から出る。
「和泉君のお母さん?終わりまし、た…」
「おっ、奏さんじゃん!
会えてラッキー。元気してたか?」
「颯馬君だぁ~」
「おぉ、絋~
勉強終わったのか!偉いな!
でもまぁ遊びも大事だぞ!
勉強なんて平均点そこそこで、いってぇ!」
「ちょっとあんた、やめてよね。
最近絋が生意気なこと言うようになってきたのよ。
あんたの影響でしょまったく…って、
あらっ双木先生、今日もありがとうございました!」
「いえ、颯馬さん、いらしてたんですね。」
「えぇ、騒がしくてお恥ずかしい…」
「賑やかで素敵ですよ。」
「さすが、奏さん分かってるなぁ!」
「お世辞だよこの愚弟。」
「おぉ、お前の母ちゃん怖ぇなぁ、絋…
いってぇ!」
大学生4年生の堀江颯馬さん。
和泉君…和泉絋君のお母さんの弟さん。
随分年の離れた兄弟なんだなと思ったことを覚えている。
たまにお母さんが家にいないときに、和泉君の子守りとして呼ばれるらしい。
三ヶ月に一回ほどは顔をあわせる。
「今日もよく頑張っていました。
また次回もよろしくお願いします。」
「ありがとうございました。」
「奏さん、帰るの?」
「えぇ。それでは。
和泉君もさようなら。」
「さよ~なら!」
最後に一礼して玄関から出る。
早く帰らないと、獅音さんからの電話に出られなくなっちゃう。
駅へ向かう道へ踏み出すと、
「奏さん!!待って!」
大声で呼び止められた。
振り返ると、玄関から颯馬さんが出てきたところだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる