観客席の、わたし

笹 司

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第六章

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「ごちそうさまでした。」

「うん、はい。薬飲んで。」

獅音さんは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

「じゃあ寝ようね。
ベッド行こう。」

「はい」

獅音さんに手を引かれてベッドルームに連れていかれる。
そしてそのままベッドに寝かされる。
うどんで体の中から暖まったからか、眠たくなってきた。

「起きるまでここにいるよ。
リビングに居てもいい?」

獅音さんがそう言って部屋から出ようとする。

…一人で眠りに落ちるのは嫌。
そばに居てほしい。
一人じゃ、寒い。

「…いっしょに、ねますか?」

「…ん?」

獅音さんは微笑みを浮かべたまま、固まった。

「獅音さんも、ねましょう?」

「…それならリビングで、」

なんか、珍しい。
獅音さんが、困ってる気がする。

「さみしいじゃないですか…」

私もちょっと、自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
ただ、この状況が少し面白くなってきた。

「はい、となり…どうぞ。」

少し壁際にずれてスペースを空ける。
…本格的に、眠くなってきた。
あくびが出る。

「…じゃあ、お邪魔、します…」

獅音さんはそう言って布団に入ってきた。
私の方を向いて横たわる。
…やっぱり獅音さん、あったかい。
子ども体温なのかな。
獅音さんの胸元に頭をよせる。

「…あったかいです。」

「…」

獅音さんは何も言わないまま右手を私の後頭部に添えて抱きよせた。

あったかい。優しい。獅音さん。
そばに居てくれて、嬉しい。











すき










すき。好き。
そっか、好きなのか。
このまま、ずっと…一緒に…居て、ほしい…
















夕方の放送が流れている。
いつの間にか、寝てしまったのか。
たっぷり寝たからか目覚めはスッキリとしている。

「ん…」

起きようとした。
それなのに、体が何かに拘束されている。
状況を確認しようと顔を上げると

「…ぇ」

獅音さんが寝ていた。
その途端寝るまでのあれやこれやを一気に思い出す。






やって、しまったぁぁぁぁ!






あ、甘えすぎた。
なんで、あんな、あぁ。
こんなつもりじゃ。
もう最悪だ、こんなのキャラじゃないのに。
こんなところ、誰にも見せたことないのに…!


「んん…」


やばい。獅音さんが起きる。
逃げたい。逃げられない。
どうしよう、どうしよう。

何もできないまま、獅音さんの目が開く。

「…奏ちゃん。おはよ」

「…おはよう、ございます…」

「…起きてすぐ視界に入るのが奏ちゃん。
幸せだなぁ。」

「あの…あの、ごめんなさい。
今日のことは忘れてくださいお願いします」

「…いつもあれくらい甘えてくれていいんだよ?」

「いえ、今回は特殊というか、
なんだかメンタルの調子も悪かったみたいで…
いつもはあんな感じじゃなくて」

「…」

「迷惑かけて、ごめんなさい…」

「…迷惑なんて思ってないよ。
また、辛い時は呼んでね。いつでも。」

そう言って、獅音さんはまた目を閉じた。

「…え、ちょっと待って獅音さん!
起きて、起きてください!」



今日初めて知ったこと。
獅音さんは一度寝ると、なかなか起きない。
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