観客席の、わたし

笹 司

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第五章

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「獅音兄さんとはどんな感じですか~」

「じゅん、ちょう…?」

「なんで疑問系なの。」

今日は琥珀とカラオケに来た。
琥珀は次の公演でミュージカルに挑戦するらしい。

「獅音兄さんのこと好きになってきた?」

「もとから嫌いじゃないよ。」

「そういうこと聞いてないってわかってるくせに~」

…正直、まぁ、ちょっとは。
以前とは獅音さんへの気持ちは違う気がする。
でも恋愛的に好きかと聞かれると、

「…わかんない。まだ。」

「…辛くはない?」

「うん、大丈夫。
獅音さんに気持ちが返せないから、大丈夫かな、とは思う…」

「その点は大丈夫。
この前も「今日も可愛かった」と惚気て帰ってきました。」

琥珀にも獅音さんにも甘えっぱなしだな。
やっぱりそろそろ、ちゃんと自分の気持ちも考えなくちゃ。
少し反省している私に

「…どこまでいった?」

琥珀がデンモクを操作しながら爆弾を落としていった。

「…というと?」

「も~カマトトぶっちゃって~」

兄妹の恋愛話ってそんなに聞きたいものなのか。

「獅音さんに聞きなよ…」

「嫌だよ。キモチワルイ。」

「私から聞いても気持ち悪いでしょ。」

「それとこれとは別なんだな、これが。」

そういうものなのだろうか。

「なんだかんだもうすぐで付き合って半年でしょ?」

「そういえば、そうだね…」

「………シた?」

またこの子は…

「…してません。」

ニヤニヤしている琥珀をジト目で見つめる。

「そっか~
でもキスはしたでしょ?絶対。」

「なんでそんな確信してるの。してない。」

「え…あ、舌入れてはないってこと、イタッ」

思わず琥珀の頭にチョップする。

「してない!」

獅音さん…下世話な妹を持って…
初めて獅音さんに同情した。
安心してください、獅音さんの威厳は私が守ります。

「え~…マジか。
…手は繋いでるよね?」

「…まぁ。」

「ハグは?」

「…うん」

「舌いれないタイプのキスは?」

「…」

「マジか…」

「何が」

食いぎみに返すと、色々と深掘りしすぎたのかと思ったのか、

「…いえ、スミマセンでした。」

「琥珀。」

「はい…」

「付き合ってる相手が琥珀にそんな関わりがなかったら色々話してるよ。
でも、獅音さんは琥珀のお兄さんでしょ。
ペラペラ喋れないよ…」

「そうだよね、ごめん…」


これまで人並みに男性とのお付き合いはあった。
でも役者を目指している頃は恋人より夢の優先度が高く、恋愛においての数々のイベントや行為も芸の肥やしだと思っていた。
これまでの別れ話で歴代の恋人たちに言われた台詞堂々の一位は「別に俺のこと好きじゃないよね」である。
その過去を琥珀は知っているから。
芸のために恋をしているわけではない今が気になるのだろう。


「…困ったことがあったら相談するから。」

「うん…」

「気にかけてくれてありがとうね、琥珀。」

「…うん。」

「パフェ食べたいな。」

「どうぞ遠慮なくご注文なさってください。」


タブレットで一番高いパフェを注文した。
追求に対する仕返しとして、これくらいは許して欲しい。
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