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第五章
Ⅲ
しおりを挟む思えば私達の関係は獅音さんのゴリ押しで始まったけれども、ふたを開ければ私中心で物事が回っている。
私の希望する連絡やデートの頻度。
私の休みに合わせたスケジュール。
私を楽しませるために考えてくれるデート。
それに対して自分はどうだ。
別に体目当てだと思われているとは少しも感じないが、獅音さんも大人の男の人。
手を繋ぐだけで満足しているのか?
…他で発散してる?
そう考えるともやもやとした気持ちが胸に広がる。
そんな自分に驚く。
嫉妬?
お門違いだろう。
私は獅音さんのことが好きなわけでは…
「奏ちゃん?」
「っ、あ、はい。」
「どうしたの?」
「いえ…」
「何か悩みごと?
ぼーっとしてるけど…あ、疲れちゃった?」
獅音さんが心配そうに私を見つめる。
「…いえ。ごめんなさい。」
「ううん。こちらこそごめんね。
引き留めちゃったもんね。」
大切に、されている。
大切にしてくれる獅音さんに…
「私に何かしてもらいたいことはありませんか?」
「え?」
しまった。
急にこんな脈略のないことを。
「え、あ、違うんです。
いや、そんなこともないけど、」
「…どうしたの?」
「えっと…」
お互いが持つフォークの動きが止まる。
「あの…獅音さんも私のこと大切にしてくれているなって、思って…
大切にしてくれる人は、大切にしたいんです。
何か私に、できることはないかな、と、思って…」
だんだん尻すぼみになる私に、
「…それは僕のことが好きになったってこと?」
「…獅音さんのこと、嫌いだったことなんて無いですよ。」
「じゃあ好き?」
「…恋愛としては、わかりません。」
「そっか。」
獅音さんは、はじめからそう言われることを知っていたような、そんな寂しい表情をしていた。
「…してもらいたいこと、というか、一緒にしたいことは沢山あるよ。」
「じゃあ…」
「でも今は一緒にいてくれるだけで嬉しい。
奏ちゃんに無理させたくない。」
「無理なんて…」
獅音さんがフォークを起き、その右手で私の左手を掴む。
「隣にいてくれるだけで良いよ。」
そう言って、獅音さんは親指で私の手の甲をするっと撫でた。
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