観客席の、わたし

笹 司

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第五章

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思えば私達の関係は獅音さんのゴリ押しで始まったけれども、ふたを開ければ私中心で物事が回っている。
私の希望する連絡やデートの頻度。
私の休みに合わせたスケジュール。
私を楽しませるために考えてくれるデート。
それに対して自分はどうだ。
別に体目当てだと思われているとは少しも感じないが、獅音さんも大人の男の人。
手を繋ぐだけで満足しているのか?



…他で発散してる?



そう考えるともやもやとした気持ちが胸に広がる。
そんな自分に驚く。
嫉妬?
お門違いだろう。
私は獅音さんのことが好きなわけでは…


「奏ちゃん?」

「っ、あ、はい。」

「どうしたの?」

「いえ…」

「何か悩みごと?
ぼーっとしてるけど…あ、疲れちゃった?」

獅音さんが心配そうに私を見つめる。

「…いえ。ごめんなさい。」

「ううん。こちらこそごめんね。
引き留めちゃったもんね。」

大切に、されている。
大切にしてくれる獅音さんに…

「私に何かしてもらいたいことはありませんか?」

「え?」

しまった。
急にこんな脈略のないことを。

「え、あ、違うんです。
いや、そんなこともないけど、」

「…どうしたの?」

「えっと…」

お互いが持つフォークの動きが止まる。

「あの…獅音さんも私のこと大切にしてくれているなって、思って…
大切にしてくれる人は、大切にしたいんです。
何か私に、できることはないかな、と、思って…」

だんだん尻すぼみになる私に、

「…それは僕のことが好きになったってこと?」

「…獅音さんのこと、嫌いだったことなんて無いですよ。」

「じゃあ好き?」

「…恋愛としては、わかりません。」

「そっか。」

獅音さんは、はじめからそう言われることを知っていたような、そんな寂しい表情をしていた。

「…してもらいたいこと、というか、一緒にしたいことは沢山あるよ。」

「じゃあ…」

「でも今は一緒にいてくれるだけで嬉しい。
奏ちゃんに無理させたくない。」

「無理なんて…」

獅音さんがフォークを起き、その右手で私の左手を掴む。

「隣にいてくれるだけで良いよ。」

そう言って、獅音さんは親指で私の手の甲をするっと撫でた。
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