観客席の、わたし

笹 司

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第五章

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『そして最後はオリオン座についてです。』

獅音さんと二人並んで空を見上げる。
手は、繋いだまま。
緊張と共に始まった夜空の観賞会はもうすぐ終わりを迎える。

『オリオンが星座になった由来はいくつかありますが、今日はそのうちの一つをご紹介します。
彼もまた、他の神話の神々のように恋多き男でした。』

オリオン座。
別に星には詳しくないが、オリオン座だけは見つけることが出来る。
夜空に無規則に散らばった星の中に、等間隔に並ぶ三つの星。
そういえば、上京してから探してみたこと無かった。

『彼と恋に落ちた女性のうちの一人アポロンの妹であるアルテミス。
しかしアポロンは二人の関係をよく思っていません。
アルテミスはアポロンに騙され、オリオンを殺してしまいました。』

なんと…
さすが神話。中々過激だなぁ。

『オリオンを生き返らせてほしいとアルテミスは冥府の王ハデスに頼みました。
しかし、それは叶いません。
次にアルテミスはゼウスにオリオンを星座として空へあげてほしいと頼みます。
その願いは聞き入れられました。
そしてオリオンは星座となったのです。
アルテミスは月の女神。
星となったオリオンはアルテミスに月の軌道上で会う日を、毎月待っているのです。』

彼を殺してしまったことを、アルテミスは悲しんだだけなのだろうか。
失って、でもある意味、手に入れた。
欲しいものを手に入れた。
そう、思った。














「どうだった?初プラネタリウム。」

館内が明るくなった。
獅音さんが横たわったまま訊ねる。

「面白かったです。
綺麗でしたね。」

握られた手をそっと離し、起き上がろうとした時。

「っ、わぁ、」

腕を引かれ、またソファに沈む。
腕を引いた張本人である獅音さんは黙ったまま。

「あの、終わったから出ないと…」

「帰る?」

「え?」

「もうバイバイする?」

大抵、獅音さんとのデートは半日程度。
お昼頃に会って夕方に解散。
今日もそろそろいつもの解散時間になるだろう。

「それくらいの時間ですね。
出ましょう。」

そう答えると獅音さんは起き上がった。
そしてまだ横たわったままの私を振り返る。










「今日はもうちょっと一緒にいたい。」











獅音さんの恋人になって、3ヶ月とちょっとが過ぎた。
そんなことを言われたのは初めてだった。
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