観客席の、わたし

笹 司

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第四章

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「んふふ、嬉しいなぁ。」

これで良かったのかと思い悩む私。
その一方でにこにこしているこの人。

「じゃあはい、僕の連絡先。」

「はい…」

「連絡の頻度はどれくらいがいいの?
会う頻度は?デートは家?外?
疲れてるときは放っておいて欲しい?
僕としては病める時も健やかなる時も、
そばに居たいなぁ。」

「ちょ、ちょっと待って、ください…」

もやもやと考えている暇など無いほどの勢いだ。

「…ともかく、これからよろしくね。」

「…はい」

「なんか僕も小腹空いてきたなぁ。
注文していい?」

「どうぞ…」

この人の思考回路、本当に分からない。
…あ、連絡先、登録しないと。
携帯を取り出し、登録を始める。

「登録できた?」

「今始めたところです。」

「明日は仕事?」

「はい」

「仕事楽しい?」

「まぁ、はい…」

「子供達は可愛い?」

「…はい」

「ねぇ、そのティラミスちょうだい。」

「はい…え?」

反応が遅れた。
自分の目の前からティラミスが無くなる。

「いやあの、それもう溶けちゃってるので、」

「うん。」

「あ、」

そして、そのまま一口、食べられた。

「なんで、さっき何か頼んでたじゃないですか…」

「なんかそれが食べたくなったの。」

前もこんなことがあった。
この人、騙し討ち上手すぎないか?
…私がチョロいのか?

「お待たせ致しました。ティラミスです。」

「え?」

そこで何故か店員さんがティラミスを持ってきた。

「あぁ、彼女に。」

「え?」

目の前に新しいティラミスが置かれる。

「…なんで?」

「だってもうこれぬるいじゃん。
そっちの方が美味しいよ。」

「そう、でしょうね…」

「ほら食べて。」

「いや、それと交換…」

「食べて」

押しが強い…

「…いただき、ます。」

獅音さんにガン見されながらという、かなり気まずい状況でティラミスを一口食べる。
この数分間でかなり疲れたのか、凄く甘く感じる。

「美味しい?」

「はい、美味しいです。」

「良かった。」

マイペースで頑固で子供っぽいところもあるけれど、基本凄く優しい人なんだなぁ。

「明日も仕事なんだよね?」

「はい。」

「わかった。
もうちょっとゆっくりしたら今日は帰ろうか。」

「はい。」

「送っていくね。」

「…はい、ありがとうございます。」

一応、恋人、になったから…
こういうお心遣いは受け取った方がいいよね…

「帰り道、手、繋ぐ?」

「は、」

危ない。
獅音さんと話すときは騙し討ちに気を付けなくては。
それに昨日の今日でそれは…
正直、恥ずかしい。照れる。

「…繋ぎません。」

「惜しかったな~」

確信犯だった。
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