観客席の、わたし

笹 司

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第三章

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獅音さんは芝居が上手かった。








『…今回の戦は負け戦になるだろう。』

『…』

『もう、会えないかもしれぬ。』

『…旦那様と、離れたくありませぬ。』

『私もだ。だが…
このままここにいては、いずれこの城も攻め落とされ、お前は…』

『…』

『お前には死んでほしくない。
だが、他の男に奪われるのも耐えられぬ。
今なら間に合う。逃げて、』

『いいえ。』




あの時、私は声が震えていた。
緊張などではなく、感情が込み上げるとすぐ涙が出てしまうからそれを抑えるために。
あの時も例外ではなく、




『…おコト。』

『旦那様だけが琴の唯一のお人。
旦那様が討たれたなら、琴も死にます。
他の殿方に心を許すくらいなら、琴は死にます。』

『…』

『…愛して、います…あいして…っ、』



最後、抑えきれずに涙がこぼれ、台詞が読めなくなっていく。
あぁ、またやってしまった。
泣いたとしても、何を言っているのか分かるように言わないと…



「…っ、」

獅音さんが動揺している。
私が泣き始めてしまったから?

『……』

「……ぁ、」

『……』






「獅音兄さん、台詞。」






「あ、あぁ…ごめんごめん。ちょっと…」

「ごめんなさい、感情の山場はもう少し後ですもんね。
私、急に泣き出しちゃってビックリしましたよね。」

「獅音兄さん、大丈夫。
奏はちょっと感情と涙の結び付きが強すぎるだけだから。
嬉しいことでも泣くから。」

「ちょっと恥ずかしいからやめてよ琥珀…
獅音さん、驚かせてごめんなさい。」

「いや…」

「じゃあもう一回、二人のシーン頭から。」

「うん。獅音さん、すみません何度も。」

「あ、いや、別に大丈夫だよ。…あの、」

「何ですか?」

「…最後の、奏ちゃんが死んじゃうシーンも見てみたいんだけど、やってくれる?」

「あ、あぁ…はい。
私が死ぬ所は琥珀も出るから、練習するので…
良かったら感想教えてください。
琥珀もいい?」

「いいけど…二人揃って死ぬ死ぬ言わないでよ…」

「ごめんごめん。」

「分かったよ琥珀。ありがとう、奏ちゃん。」












二人のシーンの練習が終わり、
最後のシーンを見た獅音さんは一言、

「いやぁ、自分の奥さんが死ぬシーンみるのは辛いねぇ。
辛い気持ちになったよ。」

そう言って、さっさと部屋を出てしまったのだった。
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