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第三章
Ⅳ
しおりを挟む獅音さんは芝居が上手かった。
『…今回の戦は負け戦になるだろう。』
『…』
『もう、会えないかもしれぬ。』
『…旦那様と、離れたくありませぬ。』
『私もだ。だが…
このままここにいては、いずれこの城も攻め落とされ、お前は…』
『…』
『お前には死んでほしくない。
だが、他の男に奪われるのも耐えられぬ。
今なら間に合う。逃げて、』
『いいえ。』
あの時、私は声が震えていた。
緊張などではなく、感情が込み上げるとすぐ涙が出てしまうからそれを抑えるために。
あの時も例外ではなく、
『…お琴。』
『旦那様だけが琴の唯一のお人。
旦那様が討たれたなら、琴も死にます。
他の殿方に心を許すくらいなら、琴は死にます。』
『…』
『…愛して、います…あいして…っ、』
最後、抑えきれずに涙がこぼれ、台詞が読めなくなっていく。
あぁ、またやってしまった。
泣いたとしても、何を言っているのか分かるように言わないと…
「…っ、」
獅音さんが動揺している。
私が泣き始めてしまったから?
『……』
「……ぁ、」
『……』
「獅音兄さん、台詞。」
「あ、あぁ…ごめんごめん。ちょっと…」
「ごめんなさい、感情の山場はもう少し後ですもんね。
私、急に泣き出しちゃってビックリしましたよね。」
「獅音兄さん、大丈夫。
奏はちょっと感情と涙の結び付きが強すぎるだけだから。
嬉しいことでも泣くから。」
「ちょっと恥ずかしいからやめてよ琥珀…
獅音さん、驚かせてごめんなさい。」
「いや…」
「じゃあもう一回、二人のシーン頭から。」
「うん。獅音さん、すみません何度も。」
「あ、いや、別に大丈夫だよ。…あの、」
「何ですか?」
「…最後の、奏ちゃんが死んじゃうシーンも見てみたいんだけど、やってくれる?」
「あ、あぁ…はい。
私が死ぬ所は琥珀も出るから、練習するので…
良かったら感想教えてください。
琥珀もいい?」
「いいけど…二人揃って死ぬ死ぬ言わないでよ…」
「ごめんごめん。」
「分かったよ琥珀。ありがとう、奏ちゃん。」
二人のシーンの練習が終わり、
最後のシーンを見た獅音さんは一言、
「いやぁ、自分の奥さんが死ぬシーンみるのは辛いねぇ。
辛い気持ちになったよ。」
そう言って、さっさと部屋を出てしまったのだった。
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