観客席の、わたし

双子のたまご

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第三章

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「ほら、どれにする?」

メニュー表を二人で覗き込む。
確かに、スイーツの種類が豊富だ。
甘いものは好きだが、いつも同じようなものばかり選んでしまう。
いつもと違うものにチャレンジして後悔するのが嫌なのだ。

「ティラミス?」

「え…」

そう、大概、どの店に行ってもティラミスをよく頼んでいる。

「…それも琥珀に聞いたんですか?」

「いや?
君、いつもうちに来るときコンビニのティラミス買ってきてたじゃない。
好きなんだなぁと思ってた。」

そういえば、そうだった気がする。

「好きな子の好きなものは覚えてたいでしょ。」

「またそういうこと言う…」

「本心だよ」

獅音さんが店員さんを呼ぶ。
注文が終わると、私を見て

「じゃあ、ティラミス来たら話を始めようね。」

そう、楽しそうに言った。














「お待たせいたしました。」

目の前にティラミスが置かれる。

「まず可愛いなって思い始めたのは…」

すると唐突に獅音さんが話し始めた。

「えっ、な、ちょっと待ってください。」

急すぎない?
というか、長くなるってそういうこと?!
結論述べるまでに根拠並べる感じ?!

「え~、ティラミス来たら話すって言ったじゃん。」

「そ、そうですけど…」

「話していい?」

どれだけ話したいんだ…

「ど、どうぞ…」

「まず可愛いなって思い始めたのは…」

同じ文言で始まった…

「うちで一緒に台本の読みあわせしたときだね。」

台本の読みあわせ。
琥珀と三人で何度かやった。

「…その節はどうも…」

「いえいえ~。
…その中でさ、何度か僕ら恋愛ものやったでしょ。」

「えぇ、まぁ…」

「僕のこと好きすぎて殺そうとするメンヘラ地雷女の時も、ストーカーに怯えて僕にすがってくる友達以上恋人未満な幼なじみの時も、身分の違いに葛藤する第二王女の時も可愛かったけどさ」

「…よく覚えてますね」

あの頃を思い出して辛いような、恥ずかしいような複雑な気持ちになる。

「それでも一番は、僕ら仲良し夫婦なのに、戦があって離ればなれになっちゃう話の時だね。
覚えてる?」

「…『おしどりの辞世』、ですね…」






…よく、覚えている。私も。

獅音さんは戦国時代の武士の役で、私の役は獅音さんの妻だった。

…そう、よく覚えている。
なぜなら、この日は何故か、最後のシーンを見せてくれと獅音さんに言われたから。
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