観客席の、わたし

笹 司

文字の大きさ
上 下
10 / 53
第二章

しおりを挟む

…この人、なに言ってるんだろう。

「だから、奏ちゃんが好きなんだってば」

「…だから、なんでですか?」

「え~…好きに理由とかある?」

「いや、分かんないですけど…」

好きになってもらうタイミングもなかったと思うけど。

「お礼くれるんでしょ?ちょうだい。」

「えっと…」

状況に混乱している間に、獅音さんはじりじりと近づいてくる。

「私は、ものじゃないって言うか…」

「あぁ、そうだね。言い方が悪かったね。
ごめんね。」

「あ…」

獅音さんの手が頬に触れる。
…動けない。

「奏ちゃんは僕の、好きな人、だったね。」

獅音さんがにっこり笑う。
でも、目は笑ってない。

…この人、ヤバい。

「っ!」

「おぉ、」

獅音さんの手を振り払ってマンションの方へ駆け出す。
焦って、中々鞄から鍵を取り出せない。
やっと見つけた鍵も、鍵穴にはまらずにカチャカチャと音を立てる。
家に入るまで追い付く時間はあっただろうけど、獅音さんは追いかけてこなかった。
















『なはははははは…!』

「なんなのその笑いかた…」




家に入ってすぐ、琥珀に連絡をいれた。

『琥珀、お疲れさま疲れてるのにごめん。
何時でもいいから電話して』

そうメールして、琥珀から電話があったのは深夜の二時だった。




『はぁっ、はぁ、く、苦しい、
あはっあははははは!っえほ、げほっ』

「むせるほど笑ってるんじゃないよ…
なに、やっぱり琥珀もグルのいたずら?」

『ちがっ、違うよぉ…』

電話の向こうの琥珀は虫の息のようだった。

「…」

『はぁ、はぁ…』

「…」

『…』

「え、なに死んだ?」

『…いきてる…』

こいつぅ…

『…奏』

「なに」

『で、どうしたの?返事した?』

「え、いや…」

『…』

「逃げたけど。」

『ぐふっ、うふふふふはははははは』

「…」

『ははは…っ、う、ふぅ、はぁ…』

「…」

『…』

「…琥珀?」

『…』



…どうやら、死んだらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

処理中です...