観客席の、わたし

笹 司

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第二章

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…この人、なに言ってるんだろう。

「だから、奏ちゃんが好きなんだってば」

「…だから、なんでですか?」

「え~…好きに理由とかある?」

「いや、分かんないですけど…」

好きになってもらうタイミングもなかったと思うけど。

「お礼くれるんでしょ?ちょうだい。」

「えっと…」

状況に混乱している間に、獅音さんはじりじりと近づいてくる。

「私は、ものじゃないって言うか…」

「あぁ、そうだね。言い方が悪かったね。
ごめんね。」

「あ…」

獅音さんの手が頬に触れる。
…動けない。

「奏ちゃんは僕の、好きな人、だったね。」

獅音さんがにっこり笑う。
でも、目は笑ってない。

…この人、ヤバい。

「っ!」

「おぉ、」

獅音さんの手を振り払ってマンションの方へ駆け出す。
焦って、中々鞄から鍵を取り出せない。
やっと見つけた鍵も、鍵穴にはまらずにカチャカチャと音を立てる。
家に入るまで追い付く時間はあっただろうけど、獅音さんは追いかけてこなかった。
















『なはははははは…!』

「なんなのその笑いかた…」




家に入ってすぐ、琥珀に連絡をいれた。

『琥珀、お疲れさま疲れてるのにごめん。
何時でもいいから電話して』

そうメールして、琥珀から電話があったのは深夜の二時だった。




『はぁっ、はぁ、く、苦しい、
あはっあははははは!っえほ、げほっ』

「むせるほど笑ってるんじゃないよ…
なに、やっぱり琥珀もグルのいたずら?」

『ちがっ、違うよぉ…』

電話の向こうの琥珀は虫の息のようだった。

「…」

『はぁ、はぁ…』

「…」

『…』

「え、なに死んだ?」

『…いきてる…』

こいつぅ…

『…奏』

「なに」

『で、どうしたの?返事した?』

「え、いや…」

『…』

「逃げたけど。」

『ぐふっ、うふふふふはははははは』

「…」

『ははは…っ、う、ふぅ、はぁ…』

「…」

『…』

「…琥珀?」

『…』



…どうやら、死んだらしい。
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