9 / 53
第二章
Ⅲ
しおりを挟む空気を読んでくれなくとも、こちらが正直に話さなければいいだけのこと。
「…感慨深くて」
「…何が?」
「琥珀が、あんなに大きな舞台に出て。」
そして話の矛先を変える。
「獅音さんも、そうでしょう?」
「…そうだね。」
「…」
「…」
獅音さんはそれ以上、何も聞かなかった。
「あの、やっぱり払います。」
「女の子に払わせるわけにはいかないでしょ。」
食事の時間は思ったよりも長引いてしまった。
半分は沈黙が流れていたと思うが。
そして、この人はいつの間にかお会計を終えていた。
加えてこの台詞。相当慣れている。
…まぁ、今度琥珀に返せばいいか。
「…ご馳走さまでした。」
「いえいえ~」
獅音さんは満足そうに笑った。
「奏ちゃん、家どこ?」
「え?」
「送るよ。」
「え、いいです。」
しまった、食いぎみに断ってしまった。
獅音さんを見る。
獅音さんは目を見開いてこちらを見ていた。
怒らせたかな…
目を泳がせていると、
「ふふふ…」
え、笑ってる…
「送らせてよ。
琥珀の大事な友達を夜に一人で帰らせるなんて、琥珀に怒られる。」
あぁ、そういうことか。
もう今日は奢って貰ったし、十分だと思うけど。
「…でも、ご馳走して貰いましたし、」
「それとこれとは別。」
…この人、こんな感じだったんだ。
物腰柔らかなのに、頑固。
琥珀に似てる。
「…送らせてくれる?」
まぁ今日かぎりのこと。
「…わかりました。」
「もうここで…」
「いやいや、家まで送るよ。」
それから、最寄り駅で一悶着。
「あの角を曲がったらすぐなので…」
「まぁまぁ。家まで、ね。」
家の近くで、もう一悶着。
「ここ、です。」
結局住んでいるマンションの前まで送ってもらってしまった。
「…すみません。」
「なんで謝るの。」
「えっと…色々と、気を遣っていただいて…?」
「気を遣ったわけじゃないよ。」
「また、改めてお礼を、」
「お礼してくれるの?」
意外、お礼に食いつくとは。
「えぇ、琥珀に渡しておきますね。
何か、お好きなものはありますか?」
「奏ちゃん」
「はい、なんですか?」
「だから、奏ちゃん。」
「…はい?」
「好きなもの、奏ちゃん。
…付き合って。」
「…なんで?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる