8 / 53
第二章
Ⅱ
しおりを挟む「久しぶり、奏ちゃん。」
獅音さん。琥珀の、お兄さん。
「あ…お久しぶりです…」
会うのは数年振り。
しかも琥珀の家で台本の読みあわせをする時や、稽古の反省会をした時に数回顔をあわせた程度。
…役の人数が足りない時は、読みあわせに付き合ってくれることもあったな。
「元気にしてた?」
「…はい。獅音さんもお元気でした?」
それと…
「龍海さんも。」
琥珀にはもう一人お兄さんがいたことを思い出した。
「…うん、元気にしてるよ。ありがとう。
今日は琥珀を観に来てくれたの?」
「はい。」
「そっか。ありがとう。
楽しかったかな?」
「…はい、とても。」
獅音さんの言葉選びは、琥珀に似ている。
「…そう、良かった。
あ、この後ご飯行かない?」
「はい……はい?」
「良かったぁ。さ、行こうか。」
獅音さんがすっと席を立つ。
騙し討ちのような食事の誘いを受けた。
…急だな。別にいいけれど。
ほら、と獅音さんに声をかけられる。
観客はほとんど劇場を出たようだった。
「美味しい?」
「はい。」
美味しい、けど。
なんだこの状況。
その質問、三度目ですけど。
思えば獅音さんと話すことなどそんなにない。
獅音さんも、妹の友達に気を遣って声をかけたものの困っているのだろう。
…これ、本当美味しい。ラム肉って初めて食べた。
私は沈黙は気にならないタイプだ。
でも獅音さんはそうじゃないかも。
食事の時間は楽しみつつ、すぐに切り上げられるよう早く食べよう。
「あのさ、」
「なんですか?」
「どうして泣いてたの?」
肉を切っていたナイフを持つ手が止まる。
…あの質問は無かったことになったと思っていた。
「…私が?泣いてました?」
それなら、こちらが無かったことにしよう。
獅音さんに言っても仕方の無いことだし、
いつまでもめそめそと未練がましい話をしたくない。
この人はそういった空気は読んでくれそうだ。
「うん、一番最初の暗転の後。」
…読んでくれなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる