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第一章
Ⅲ
しおりを挟む「奏!」
「琥珀、久しぶり!
忙しくしてるみたいですねぇ。」
「とんでもないですよ、せんせ~い」
今日は仕事が休みの日。
久しぶりに友人に会う日だった。
琥珀とは大学生時代に出会った。
役者仲間だった。
大学四年間で繋がったご縁の中で残っているのは、彼女だけ。
芝居を辞めると彼女に伝えたときのことを、今でも覚えている。
『……辞める?』
『…うん。』
『どうして?』
『…私、続けていく自信がないの。
このまま、何の才能もないことをはっきりと理解するのが怖い。』
『…そう。』
『…』
お世話になった人、ワークショップやオーディションで出来た友人には挨拶をして回っていた。
役者を諦めるなど、もっとよくある話。
引き留めるレッスンの先生、呆れた様子のワークショップの演出家、もう私になど興味がなくなった友人達。
でも、琥珀だけは違った反応だった。
『…っ。』
『…どうして、琥珀が、泣くの…?』
『…ごめん。奏は演劇を愛してるから…辛い。』
正直、驚いた。
『何て言ったらいいか分からないけど、
私が勝手にそう思ってるだけかも知れないけど、
これは、奏にとって凄く大きな決断で…
苦しんだ結果で…
で、でも、まだきっと、奏は苦しくて…
そんな…そんな風に、奏で苦しんでいることが、辛い。』
声をつまらせながら、彼女はそう言った。
私も、何を言えばいいのか分からなかった。
ただ、
『…ありがとう。』
そう言葉にしたとき、私の目からも涙が溢れた。
琥珀が私を見る。
『…琥珀が、そう思ってくれるだけで…
私の、私の気持ちを分かってくれてる人がいる、ことが、嬉しい…
苦しい、よ…でも、
諦める人間がそれを言うのは、違う、と…』
『…』
『な、何も、何も得られなかったと思ってた…
でも…琥珀が、琥珀とこうやって、友達になれた…
私、凄く、幸せ。
ありがとう。……あ、ありが、とっ…う…』
『うん…うん…。』
それから、琥珀は今までずっと、気にかけて連絡をくれる。
私の大切な、大切な、友人。
今日も彼女の目は太陽の下、キラキラと輝いている。
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