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開演
三年半前 藍の城にて : 玲
しおりを挟む琴から、会えないと、返事が来た。
殿は独り身の女に飽きたらず女がいるという噂を聞けば、すぐにその家に書簡を出して呼び寄せた。
夫のいる侍女。
夫のいる使用人。
商人の妻。
好きなときに、好きなだけ、女をつまんでは捨てる日々。
一番始めに捨てられた私が閨に呼ばれることは、もうない。
だが、どの女も殿の唯一にはなれない。
皆捨てられるが、私は世継ぎも産んだ正室。
殿の隣にいることが公的に唯一許されている。
その事実だけが、私を保たせていた。
手当たり次第に食いつくしている殿も、お琴や確かなお家の奥方には書簡を出していない様子。
流石に側近の妻には手を出さぬか。
半分諦めていた。
だが少しずつ、殿のタガは外れていっていた。
殿が琴に書簡を出した、と聞いて、遂に、と思った。
あの日撒いた種が芽吹いたと。
琴は、どうするだろうかと。
どう転んでいても、琴は困るだろう。
子がいないのに夫に愛されている琴。
少しだけ、困ればいい。
結局、琴は守られた。
病に伏せている為に城には連れてこられない、と忠義殿が表にたった。
嘘だと思った。
でも琴は一月経っても二月経っても表に出てこなかった。
困ればいいという気持ちは、あっという間に不安と心配に変わった。
本当に、酷い病なのかもしれない。
ある日、忠義殿が側近を辞すという話を聞いた。
琴と共に療養のために城下を離れるらしい。
琴が、いなくなる。
この地に、わたし一人?
急に怖くなった。
ここから離れてしまうのか。
その前に会いたい。
そう思い、筆を手に取る。
会いに来てくれないか。
そう記している途中で一年半も続く病ならば命に関わるものなのではと思い至った。
会いに来るのは辛いかもしれない。
それならば、私が琴に会いに行く。
殿はもう私が何をしているのか興味がない。
友の家に見舞いにいっても問題ないだろう。
送った書簡に対しては
病をうつしてしまってはいけないので、と返事があった。
そして翌日、琴はこの地からいなくなった。
そこに、不幸は重なる。
「お玲様…!若君様が、」
私の若君が、遊びの途中で池に落ちた。
「申し訳ございませぬ!!
お玲様、お慈悲を…!」
池に落ちて、溺れた。
侍女が目を離した一瞬の間のことだった。
「うるさい!
お前…お前は死罪じゃ!
死んで償え!よくも、よくも私の子を!」
そして、溺れ死んだ。
「お玲様!お気をたしかに!」
「あぁぁぁぁ!!!!!
うるさい!返せ!私の子を!
いやぁぁぁぁぁ!!!」
お付きの侍女は拷問にかけたのち、死罪。
一族もすべて。
町では、殿だけでなく奥方様まで狂われた、と言われた。
うるさい。
子を失って正気でいられるか。
私の、たった一人の子供。
こんな時でも、殿は側にいてくださらない。
ここに私の心の支えはいなくなった。
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