おしどりの辞世

双子のたまご

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六年前 萌黄の館にて : 琴

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「奥様。
藍の城から…お玲様からお手紙でございます。」

「まぁ、嬉しい。」

お玲が若君をお産みになったとの知らせを聞いてからしばらく、久方ぶりのお手紙だった。
書面に目を通す。
子もお玲も落ち着いたため、是非会いに来て欲しいとのことだった。

「お鈴、お玲様が会いに来て欲しいと。
すぐにお返事を致しましょう。」

「はい。」

そう答えて出ていくお鈴と入れ違いに旦那様が部屋に入ってくる。

「書簡か?」

「ええ。お玲様からでございます。」

「…お玲様、から。」

旦那様の眉間にぐっ、と皺が寄る。

「…どうかされたのですか?」

「あ…あぁ、いや、」

「若君にも会わせてくださるそうで。
ありがたいことでございますね。」

「…」

「…旦那様?」

子の話題になると旦那様はなんとなく身構えられるようになった。
またいつ、里に帰ると言われるか気が気でないらしい。
今回、若君にお会いしてまた私が自分を責め始めるのではないかと思っていらっしゃるかもしれない。

「…いつか、私たちにも子ができれば嬉しゅうございますね。」

この、一年。
子を諦めたわけではないが、相も変わらずこの身に子が宿る気配はない。

でも、

「琴は旦那様の側に居るだけで十分幸せでございます。」

それでも旦那様が居てくださるならそれでいいと思えるようになった。
その想いを伝えたくて、言葉を続ける。

「…旦那様が居てくだされば、他には何もいりませぬ。」

「…そうか。」

旦那様が側に寄って抱き寄せてくださる。
初めは手が触れるだけで身を固くしていたというのに、今は旦那様の腕の中以上に落ち着ける場所はないと思う。
帰る場所は里ではなく、この人の腕の中なのだと。

「…若君がお産まれになったときも贈り物はしたが、また新たに用意させよう。」

「…えぇ。」

「館から出るのも久し振りではないか?
今度は私と町に出よう。」

「嬉しゅうございます。」

この人は、自分からは恥ずかしげもなく愛している等と言えるのに、自分が言われることには慣れないらしい。
きっと私をぎゅっと抱き締めているのは、その赤い顔を見られないためでもあるのだろう。

「…私も、お前がいれば他に何もいらぬ。」

「…ふふ。」

忠義様のもとに嫁いで四年。
惚れた腫れたから始まった結婚ではない。
でも今、私は忠義様を好いている。
忠義様も私を好いている。
子のできない私を、好いている。

私と離縁しない忠義様はすっかり変わり者扱い。
忠義様と離縁しない私は面の皮の厚い女。
世の中にそう見られるのは仕方ない。
この世の理に反しているのは私たちの方なのだから。

でももう、そんなことはどうでも良いのだ。

「…お慕いしております。」




それが、すべて。
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