11 / 23
開演
七年前 藍の城にて : 玲
しおりを挟む子ができたことが分かったとき、
「子ができた?
あぁ…
…しばらく抱けぬと思うと惜しいのぅ。」
殿はそう言った。
その言葉を、この時の私は特に気に留めなかった。
殿に嫁いでもうすぐ三年。
子が出来ぬことに焦っていた。
正室という地位を追われるかもしれぬ、と。
だが遂に、この身に子が宿った。
心底、安堵した。
無事にこの子を産むこと、それだけを考えていた。
子が腹にいる間に殿は何人か側室をとった。
おかしなことではない。
ただ、他の女に殿を取られてしまうのではという悋気に悩まされた。
その度に、殿の子を身籠っている以上恐れることはないと自分に言い聞かせた。
子を産んだ後、また寵を受ければよい。
子が産まれた。
若君。男児。跡継ぎ。
良かった。
殿のお役に立てた。
殿もお喜びくださるはず。
子も産まれたのだから、また私のもとへ通ってくださるはず。
そう思っていたのに、殿は若君にも私にも会いに来てくださらなかった。
しびれを切らして、殿のもとに自ら向かう。
殿の側には側室の女が侍っていた。
「殿。殿の子にございます。
どうぞ、顔を見てやってくださいまし。」
「あぁ…ご苦労であったな。
下がってよいぞ。」
…え、
「殿?」
「…なんじゃ」
疎ましそうに、私を見る目。
「この子は、跡継ぎでございますよ…」
「あぁ。だからなんじゃ。」
「…喜んで、くださらぬのですか…」
「喜ぶも何も、どうでもよいことよ。」
「いま、なんと…」
「子が産まれたことなど、どうでもよい。
周りが世継ぎ世継ぎとうるさくなった。
ちょうどお前にも飽きておったから子を作った。
それだけだ。」
…どういうことだろうか。
子は授かりもの。
それなのに、殿の言い方ではまるで、すべて計画されていたかのよう。
そう思っていたのが、顔に出ていたのだろうか。
殿が面倒そうに口を開いた。
「…お前にずっと、子が出来ぬ薬を飲ませておった。
子ができてしまっては、お前を抱くことが出来ぬからな。
だが…お前に飽きたから、薬を飲ませるのをやめた。
だから子ができた。
それだけだ。」
「なにを…」
殿の仰っていることが、理解できない。
殿の隣に座る女が笑っている。
「しつこい。
もうお前に飽きたと、何度も言っている。」
殿が、隣の女の腰を抱く。
「確かにお前以上に美しい女はおらぬ。
だが、その美しい女はわしのものだ。
お前はわしのもの。
もう手に入れた。
味わい尽くした。
…これからは他の、お前の次に美しい女たちを順に手に入れていこうと思ってなぁ。」
少しずつ、心が軋む、音がする。
「まぁお前もこれで国母となったのだ。
満足であろう?
感謝するがよい。」
もう殿は、こちらを見ようともしない。
「下がれ。」
あの日、私から目を離せなかった、私しか見えていなかった殿はどこにもいなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ロマンティックの欠片もない
水野七緒
恋愛
27歳にして処女の三辺菜穂(みなべ・なほ)は、派遣先で元カレ・緒形雪野(おがた・ゆきの)と再会する。
元カレといっても、彼の気まぐれで高校時代にほんの3ヶ月ほど付き合っただけ──菜穂はそう思っていたが、緒形はそうでもないようで……
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる