おしどりの辞世

双子のたまご

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七年前 藍の城にて : 玲

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子ができたことが分かったとき、

「子ができた?
あぁ…
…しばらく抱けぬと思うと惜しいのぅ。」

殿はそう言った。
その言葉を、この時の私は特に気に留めなかった。

殿に嫁いでもうすぐ三年。
子が出来ぬことに焦っていた。
正室という地位を追われるかもしれぬ、と。
だが遂に、この身に子が宿った。
心底、安堵した。
無事にこの子を産むこと、それだけを考えていた。

子が腹にいる間に殿は何人か側室をとった。
おかしなことではない。
ただ、他の女に殿を取られてしまうのではという悋気に悩まされた。
その度に、殿の子を身籠っている以上恐れることはないと自分に言い聞かせた。
子を産んだ後、また寵を受ければよい。




子が産まれた。
若君。男児。跡継ぎ。
良かった。
殿のお役に立てた。
殿もお喜びくださるはず。
子も産まれたのだから、また私のもとへ通ってくださるはず。

そう思っていたのに、殿は若君にも私にも会いに来てくださらなかった。


しびれを切らして、殿のもとに自ら向かう。
殿の側には側室の女が侍っていた。

「殿。殿の子にございます。
どうぞ、顔を見てやってくださいまし。」

「あぁ…ご苦労であったな。
下がってよいぞ。」

…え、

「殿?」

「…なんじゃ」

疎ましそうに、私を見る目。

「この子は、跡継ぎでございますよ…」

「あぁ。だからなんじゃ。」

「…喜んで、くださらぬのですか…」










「喜ぶも何も、どうでもよいことよ。」










「いま、なんと…」

「子が産まれたことなど、どうでもよい。
周りが世継ぎ世継ぎとうるさくなった。
ちょうどお前にも飽きておったから子を作った。
それだけだ。」

…どういうことだろうか。
子は授かりもの。
それなのに、殿の言い方ではまるで、すべて計画されていたかのよう。

そう思っていたのが、顔に出ていたのだろうか。
殿が面倒そうに口を開いた。

「…お前にずっと、子が出来ぬ薬を飲ませておった。
子ができてしまっては、お前を抱くことが出来ぬからな。
だが…お前に飽きたから、薬を飲ませるのをやめた。
だから子ができた。
それだけだ。」

「なにを…」

殿の仰っていることが、理解できない。
殿の隣に座る女が笑っている。

「しつこい。
もうお前に飽きたと、何度も言っている。」

殿が、隣の女の腰を抱く。

「確かにお前以上に美しい女はおらぬ。
だが、その美しい女はわしのものだ。
お前はわしのもの。
もう手に入れた。
味わい尽くした。
…これからは他の、お前の次に美しい女たちを順に手に入れていこうと思ってなぁ。」

少しずつ、心が軋む、音がする。

「まぁお前もこれで国母となったのだ。
満足であろう?
感謝するがよい。」

もう殿は、こちらを見ようともしない。

「下がれ。」

あの日、私から目を離せなかった、私しか見えていなかった殿はどこにもいなかった。
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