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12話 夜のスキンシップ
しおりを挟むギルフォードは、マンドラゴラ夫婦の自宅へと入ると、双葉へと近づいていく。
双葉は、ピンと天へと伸びて元気そうだが、成長しているようには見えない。
種から発芽するまでも長い時間がかかった。
オフィーリア様曰く、この双葉は、両親以上に上位種のマンドラゴラらしく、魔王城から溢れる魔素を浴びてはいるが、それだけでは魔素が足りていないらしい。
魔素が一定以上溜まるまでは、成長できないとのことなのだ。
ギルフォードは、少しでも双葉の成長の足しになればと、森の中で魔石を探しては、双葉の近くに埋めている。
魔石は魔獣の身体の中に核として在る物だ。簡単に言えば、大気中の魔素が凝縮されて固まったものだ。獣と魔獣の違いは、体内に、この魔石が有るか無いかだといえる。
人間は魔石を魔道具の動力にするため必要としてはいるが、中々手に入るものではない。
魔獣を倒して、その体の中から取り出さなければならないからだ。しかし魔獣を倒せる人間は、そうそうにはいない。
ギルフォードは、そんな魔石を魔の森の中で、拾ってくる。
人の手にかからなくとも、死ぬ魔獣は多くいるから。魔獣は死ぬと身体から魔石がこぼれ出て、一定の時間が経つと地に帰る。
ギルフォードは、地に帰る前の魔石を探して、せっせと双葉の元へと届けているのだ。
「きゅっ」
「うきゅっ」
ギルフォードが魔石を埋め終わるころ、マンドラゴラ夫婦がやってきた。手に手にぞうさんじょうろを持っているから、水を汲みに行っていたのだろう。
マンドラゴラ夫婦は、それはそれは双葉を大切にしている。
芽が出る迄は、ヤキモキしていたが、芽が出たら出たで、なかなか大きくならない双葉に、またもヤキモキしている。
それを側で見ていたギルフォードは、自分にも何か出来ないかと、魔石を集めるようになったのだ。
「うきゅきゅー」
ドラ子が双葉に向かって、水をかける。その横で、ゴラ男が謎の伸縮踊りを踊っている。
「早く大きくなれよぉ」
ギルフォードも双葉に向かって声をかける。
柵の外では、シアと亀助が、まだ揉めているようだが、一切無視する。
「きゆゅ」
「え?」
ギルフォードの目の前で、双葉が揺れると、小さな声が聞こえた。
「もしかして、双葉の声?」
ギルフォードは微かに聞こえた声の方に向かい、耳を近づける。マンドラゴラ夫婦も耳を澄ましているのか、双葉に注目している。
ポコリ。
小さな土くれが双葉の横からこぼれ出ると、双葉が揺れながら、伸びていく。
小さな顔が、現れてくる。
「うっわぁ、可愛い」
小さな小さなマンドラゴラが上半身を土から出して、ギルフォードを見ている。
未だ頭の葉っぱは双葉だけだが、双葉はピコピコと動いている。
「「うきゅきゅきゅきゅ~」」
マンドラゴラ夫婦も大喜びだが、その場からは動かない。
双葉は力を入れて身動きしているのだが、中々土の中から出てこられないようで、思わずギルフォードは手を挿し伸ばす。
「あらあら駄目よぉ。生まれたてのマンドラゴラは、自分の力で土から出なければならないのよ」
いつの間にかにギルフォードの背後には女神オフィーリアがいて、ギルフォードの手を押さえ付ける。半透明なオフィーリアの腕は、ギルフォードの手を通り抜けてしまったが。
お手軽顕現の女神に、ギルフォードは驚いて、ピクリと身体を震わせてしまう。
「うわぁ、そうなんだ。知らなかったとはいえゴメン。オフィーリア様に止めてもらって良かった」
ギルフォードの手は、双葉にあと少しという所まで来ていたのだ。慌ててギルフォードは、自分の伸ばした手を引っ込める。
やや長い時間をかけ、やっと双葉は土から自分の力で這い出てきた。
その時、可愛らしい悲鳴を上げたのだが、魔の森に認められているギルフォードに、悲鳴が作用することは無かった。
そして、おぼつかない足取りで、マンドラゴラ夫婦ではなく、ギルフォードへと抱き着いてきたのだ。
「ウフフフ。可愛らしい赤ちゃんねぇ。生まれたばかりなのに、双葉ちゃんはギルフォードのことが好きなのね」
ホンワリと笑うオフィーリアだが、マンドラゴラ夫婦の冷たい視線にさらされているギルフォードは、それどころではない。
「うきゅう、うきゅう」
小さなマンドラゴラは、ギルフォードの腰にしがみつき、嬉しそうに双葉を揺らしている。
「騒がしいけど、どうしたの?」
リーリアが魔王城から出てきた。
夕飯を作っていたのだろう、片手にお玉を持っている。
「もしかして、双葉ちゃんが土から出てきたの?」
ギルフォードに抱き着いている双葉を見て、リーリアが嬉しそうに、駆け寄って来る。
「キシャーっ」
双葉が威嚇音を発し、ピリピリと辺りに魔力が放出される。
「双葉ちゃん……」
リーリアは畑の柵から中に入ることが出来ず、悲しそうに双葉を見ている。
(どうしてこんなにリーリアを嫌うのだろう?)
小さな双葉に触れるのも躊躇われ、ギルフォードは、ただただ困惑してしまうのだった。
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