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クロノスの遺産−前篇−
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時元牢獄クロノスの中心に、〝それ〟を残す。
〝それ〟は後世に於いて、必ずや人類を救う遺産となるだろう。
──秘匿文書ファイルN239ーB末文
時元牢獄クロノス攻略戦は、人類が初めて経験する、〝違〟時間戦闘行為だった。
複数の重力渦が複雑に絡み合ったネゲントロピー効果で、内部へ侵攻するほど時間の流れが遅くなっている。
その為、後衛や本部は前線に立つ戦力とは連携が取れず、報告を受信する際にも多大な時差が生じてしまい、作戦立案すらも手探りである状態が、なんと一世紀近くも続いていた。
しかも、情報の確度は低いとはいえ、通称〈禁域〉と呼ばれる中核部に至っては、時間の逆行も確認されたと報告された事もあり、前線からの帰還者の中には、やや主観寄りではあるものの、それを裏付けるような発言をする者も少なく無かった。
とはいえ、報告された情報を確かめる為に、戦力はともかく、多大な時間を費やさなければならないのは、人類軍首脳部の悩みの種であり、ここ半世紀の継続的な長期作戦においても、何とか戦線を維持するだけに留まる妥協案に移行しつつあった。
そんな折、総合時差指数0.78という比較的低リスクな進行ルートが開拓され、半世紀ぶりに大規模な侵攻作戦が立案されたのである。
「どう思う、テスタ」
『どう、って? 作戦の成功率?』
少女のホロヴィジョンが首を傾げる。
「いいや、例の遺産の正体さ」
『うーん…。正直、全然わからないよ』
それは支援AIらしくない言い回しであったが、ファロスはそれを天文学的な確率分岐の為だと理解した。
「上は?」
『たぶん、同じ事言うんじゃないかな』
「フム…」
ファロスは小さく唸った。
正体もよく分からない〝遺産〟とやらに、そこまで躍起になる理由には見当もつかなかったのだ。
『どうしたの? 不安?』
「いや…。…うん、そうだね」
今までは、どんな任務も……危険が伴う威力偵察でさえ、不安を感じる事は無かった。
しかし、この見通しのつかない時元牢獄攻略戦について感じる、不明瞭さゆえのフラストレーションは、およそ初めてと言っていい感情だった。
合致するかは分からないが、不安、という単語の色合いは、確かに正しいと思える。
ファロスの駆るナイト・タイプの人型機動兵器テスタメントは、新たに開拓されたクロノス進行ルートを目指し、青白い閃光を引きながら、暗黒宙域を軽快に進んでいた。
光が輪の様に歪む、事象の地平線。
複数の重力渦によって生み出され続ける、光の独楽のようなそれは、決して運動を止めない永久機関として存在し続けている。
ファロスの駆るテスタメントの後方で随伴する、3機のナイト・タイプは、それぞれ明碧のラバタール、蒼煙のプシュカ、そして、黄金のヴァジュラであった。
(あのヴァジュラが…)
ファロスは、静かに高揚していた。
今作戦の編隊には、欠く事のできない絶対条件がある。
即ち、人間の搭乗する機体は1機に限り、残りは搭乗者を必要としない機体で部隊を編成する、というものである。
違時間戦闘を行う上で、生命活動という時間制限は枷にしかならず、しかし最終的に『人間が判断を下す』という作戦規定をクリアする為には、この編成を採用する他ないからだ。
ファロスは、上層部が言うところの、栄えある指揮官というポジションに収まってはいるが、戦闘経験値上では4機小隊の下から2番目であった為、個体での戦闘力が著しく高いヴァジュラを編成に加える事で、強引に納得させられたようなものであった。
重力渦の重複宙域が近づき、随伴機が使い捨てのマーカーと有線プローブを放出する。
各機から集まる周辺データを集約し、テスタメントが不安定な宙域の様相を明らかにしていく。
(左舷は1.14、右舷は0.87…まだそんなでもないかな)
標準時流を1として算出する時差を確認しながら、時流が正常値に比較的近い宙域を通る為に、この確認作業は必須である。
目に見えない渦を避けつつ、ファロスの小隊はクロノス中心部へと飛翔し続けた。
『左舷、8時方向、重力震』
ヴァジュラの声に、ファロスは身構えた。
変動の先からやってきたのは、旧型の機械兵器ズィーロットである。
それらは青白いスラスター光を噴きあげると、牽制の弾幕を張りつつ接近を試みてきた。
ファロス達からすれば旧世代の遺物が、丸腰で戦いを挑んでくるかのような、異様な光景であった。
何か裏があるのか、と警戒する彼を尻目に、ヴァジュラとラバタールのビームが敵機の群れを切り裂いた。
『何もない。セオリー通りで良い』
ラバタールの言葉に、ファロスは息を吐いた。
『ラバの言う通りだ。ココの連中は、文字通りの意味で遅れてんのさ』
プシュカの言葉は軽薄だったが、事実その通りなのだろう、と、砕け散るズィーロットの残骸を見やり、ファロスは思った。
時間の流れが違うということは、即ち基底時間世界の技術競争から切り離されてしまう、ということなのだ。
時元牢獄にたゆたう生産拠点、巣穴からすれば、基底時間世界こそ、高速の果ての未来兵器が蔓延る異界に映っているのかも知れない。
何にせよ、この宙域において、敵性存在は脅威ではないという意味が、ようやく理解できた。
『油断しないで、ファロス』
「テスタ?」
『もし逆行宙域で接敵したら、こっちがああなるよ』
「……まさか」
『作戦中に冗談を言うと思う?』
「……」
閉口するファロスを、ホロヴィジョンの少女が見据えている。
『深紅の言う通りだ』
ヴァジュラが二人を宥めるように言った。
『恐らく、ここの連中は逆行現象を逆手に取っているから、兵器を進化させていないのだ。…いや、させる必要が無いのか…出来ない、というのが正しいのかも知れん』
『そうね、時間平面上においては、進化や退化という変化概念がないのかも』
テスタが言うと、
『あり得る話だ』
ヴァジュラは短く同意した。
『あの闇雲に突っ込んでくる原理は、思考というより反射行動だったな。この宙域で一番合理的な戦術ということか』
ラバタールの落ち着き払った声が割って入り、ファロスは益々発言のタイミングを逃してしまった。
『そりゃ興味深い感想だね。違時間戦闘関連のレポートでも、似たような報告があったけど』
プシュカは好奇心を抑えきれない、という様子だった。
この中で、ただ一人の人間に出来ることなど、何もない。
「…わかった。もういいだろう、みんな、無駄口よりも先に進もう」
『そうだな。検証は落ち着いてからでも遅くない』
ヴァジュラが同意してくれたことで、ファロスはホッとした。
『各機、引き続き時流変動に気を付けて。警戒体制を維持』
テスタの命令に、随伴機達は一斉に『了解』と応えた。
5度目の戦闘の直後、プシュカの軽口が初めて消えた。
『テス! 逆行だ! ヤツら〝戻って〟くるぞ!』
ファロスが振り向くと、後方で朽ちかけていたズィーロット3機の破片群が、逆再生をかけた映像のように、スルスルと復元されていくのが見えた。
そして、完全に復元された3機は、すぐに現状を把握し、こちらに再接近してきた。
『ラバ、あのポイントの変動値は?』
『0.33だ。マイナスじゃない。9秒前に確認したばかりだぞ!』
答えたラバタールは、謂れの無い非難に腹を立てるような口調だ。
しかし、甦ったところで決定的な戦力差と結果は変わらない。
ファロス達はフォトンライフルの最小火力の反撃で、3機を再撃墜した。
『極小規模の重力渦の複合効果だ。こちらのデバイスでは観測出来ないが、連中には視えている可能性が高い』
ヴァジュラの冷静な分析を聞き、ファロスはぞくりとした。
破壊されたところで、このクロノス宙域に多数存在しているらしい局所的逆行現象で復活を果たせてしまうなら、連中の存在は実質無限という事になる。
さらに、それを故意に引き起こせるという事になれば、有限という檻の中に囚われたこちらに勝ち目は無くなってしまう。
その事実が恐ろしくなり、ファロスは朽ちた残骸にフォトンライフルを向けさせると、敵機の破片が見えなくなるまで撃ち続けた。
『…ファロス』
テスタの憐れむような声に、ファロスは我に返った。
「テスタ…ヤツら、あの状態でも戻ってこられるのか?」
『…うん、あたし達の推測では100%ね。…それか、存在した事実が基底世界にレコードされている以上、無からでも復元する可能性だってあるわ』
「そんなバカな」
『冷静になれ。立ち向かう必要はない、深紅の搭乗者』
ゆったりと説いたヴァジュラの言葉に、彼は少し落ち着きを取り戻せたような気がした。
「冷静になる時間があるのは、アンタ達、機械だけだよ、ヴァジュラ」
口をついた直後に、ファロスは後悔して、一言「…ごめん」とだけ謝った。
『構わない。我々は人間に追従するAIだ。それより…』
言って、ヴァジュラの黄金の指が、一点を指差した。
いつかと同じ様な所作に、ファロスは自然と指し示す先を見た。
巨大なブラックホールの脇に、惑星のような物が浮かんでいた。
あり得ない光景に、ファロスは混乱した。
あの位置で、物体が重力やその他の影響を受けないはずがないからだ。
『報告にあった外観情報と一致。対象を一次目標と断定。以降、対象を〈クロノスの独楽〉と呼称する』
ラバタールの声が遠くに聞こえる。
『あのサマがもう、遺産そのものって感じだ』
プシュカは言って、目標までの最適なルートを思索した。
ヴァジュラは全方位警戒の体勢に入って、テスタメントの前に出た。
『接触しよう、隊長』
「わかった」
ファロスは覚悟を決め、白く輝く淵に浮かぶ星に向かって、進行を開始した。
人類に最後に残された、その遺産の正体を求めて。
了
〝それ〟は後世に於いて、必ずや人類を救う遺産となるだろう。
──秘匿文書ファイルN239ーB末文
時元牢獄クロノス攻略戦は、人類が初めて経験する、〝違〟時間戦闘行為だった。
複数の重力渦が複雑に絡み合ったネゲントロピー効果で、内部へ侵攻するほど時間の流れが遅くなっている。
その為、後衛や本部は前線に立つ戦力とは連携が取れず、報告を受信する際にも多大な時差が生じてしまい、作戦立案すらも手探りである状態が、なんと一世紀近くも続いていた。
しかも、情報の確度は低いとはいえ、通称〈禁域〉と呼ばれる中核部に至っては、時間の逆行も確認されたと報告された事もあり、前線からの帰還者の中には、やや主観寄りではあるものの、それを裏付けるような発言をする者も少なく無かった。
とはいえ、報告された情報を確かめる為に、戦力はともかく、多大な時間を費やさなければならないのは、人類軍首脳部の悩みの種であり、ここ半世紀の継続的な長期作戦においても、何とか戦線を維持するだけに留まる妥協案に移行しつつあった。
そんな折、総合時差指数0.78という比較的低リスクな進行ルートが開拓され、半世紀ぶりに大規模な侵攻作戦が立案されたのである。
「どう思う、テスタ」
『どう、って? 作戦の成功率?』
少女のホロヴィジョンが首を傾げる。
「いいや、例の遺産の正体さ」
『うーん…。正直、全然わからないよ』
それは支援AIらしくない言い回しであったが、ファロスはそれを天文学的な確率分岐の為だと理解した。
「上は?」
『たぶん、同じ事言うんじゃないかな』
「フム…」
ファロスは小さく唸った。
正体もよく分からない〝遺産〟とやらに、そこまで躍起になる理由には見当もつかなかったのだ。
『どうしたの? 不安?』
「いや…。…うん、そうだね」
今までは、どんな任務も……危険が伴う威力偵察でさえ、不安を感じる事は無かった。
しかし、この見通しのつかない時元牢獄攻略戦について感じる、不明瞭さゆえのフラストレーションは、およそ初めてと言っていい感情だった。
合致するかは分からないが、不安、という単語の色合いは、確かに正しいと思える。
ファロスの駆るナイト・タイプの人型機動兵器テスタメントは、新たに開拓されたクロノス進行ルートを目指し、青白い閃光を引きながら、暗黒宙域を軽快に進んでいた。
光が輪の様に歪む、事象の地平線。
複数の重力渦によって生み出され続ける、光の独楽のようなそれは、決して運動を止めない永久機関として存在し続けている。
ファロスの駆るテスタメントの後方で随伴する、3機のナイト・タイプは、それぞれ明碧のラバタール、蒼煙のプシュカ、そして、黄金のヴァジュラであった。
(あのヴァジュラが…)
ファロスは、静かに高揚していた。
今作戦の編隊には、欠く事のできない絶対条件がある。
即ち、人間の搭乗する機体は1機に限り、残りは搭乗者を必要としない機体で部隊を編成する、というものである。
違時間戦闘を行う上で、生命活動という時間制限は枷にしかならず、しかし最終的に『人間が判断を下す』という作戦規定をクリアする為には、この編成を採用する他ないからだ。
ファロスは、上層部が言うところの、栄えある指揮官というポジションに収まってはいるが、戦闘経験値上では4機小隊の下から2番目であった為、個体での戦闘力が著しく高いヴァジュラを編成に加える事で、強引に納得させられたようなものであった。
重力渦の重複宙域が近づき、随伴機が使い捨てのマーカーと有線プローブを放出する。
各機から集まる周辺データを集約し、テスタメントが不安定な宙域の様相を明らかにしていく。
(左舷は1.14、右舷は0.87…まだそんなでもないかな)
標準時流を1として算出する時差を確認しながら、時流が正常値に比較的近い宙域を通る為に、この確認作業は必須である。
目に見えない渦を避けつつ、ファロスの小隊はクロノス中心部へと飛翔し続けた。
『左舷、8時方向、重力震』
ヴァジュラの声に、ファロスは身構えた。
変動の先からやってきたのは、旧型の機械兵器ズィーロットである。
それらは青白いスラスター光を噴きあげると、牽制の弾幕を張りつつ接近を試みてきた。
ファロス達からすれば旧世代の遺物が、丸腰で戦いを挑んでくるかのような、異様な光景であった。
何か裏があるのか、と警戒する彼を尻目に、ヴァジュラとラバタールのビームが敵機の群れを切り裂いた。
『何もない。セオリー通りで良い』
ラバタールの言葉に、ファロスは息を吐いた。
『ラバの言う通りだ。ココの連中は、文字通りの意味で遅れてんのさ』
プシュカの言葉は軽薄だったが、事実その通りなのだろう、と、砕け散るズィーロットの残骸を見やり、ファロスは思った。
時間の流れが違うということは、即ち基底時間世界の技術競争から切り離されてしまう、ということなのだ。
時元牢獄にたゆたう生産拠点、巣穴からすれば、基底時間世界こそ、高速の果ての未来兵器が蔓延る異界に映っているのかも知れない。
何にせよ、この宙域において、敵性存在は脅威ではないという意味が、ようやく理解できた。
『油断しないで、ファロス』
「テスタ?」
『もし逆行宙域で接敵したら、こっちがああなるよ』
「……まさか」
『作戦中に冗談を言うと思う?』
「……」
閉口するファロスを、ホロヴィジョンの少女が見据えている。
『深紅の言う通りだ』
ヴァジュラが二人を宥めるように言った。
『恐らく、ここの連中は逆行現象を逆手に取っているから、兵器を進化させていないのだ。…いや、させる必要が無いのか…出来ない、というのが正しいのかも知れん』
『そうね、時間平面上においては、進化や退化という変化概念がないのかも』
テスタが言うと、
『あり得る話だ』
ヴァジュラは短く同意した。
『あの闇雲に突っ込んでくる原理は、思考というより反射行動だったな。この宙域で一番合理的な戦術ということか』
ラバタールの落ち着き払った声が割って入り、ファロスは益々発言のタイミングを逃してしまった。
『そりゃ興味深い感想だね。違時間戦闘関連のレポートでも、似たような報告があったけど』
プシュカは好奇心を抑えきれない、という様子だった。
この中で、ただ一人の人間に出来ることなど、何もない。
「…わかった。もういいだろう、みんな、無駄口よりも先に進もう」
『そうだな。検証は落ち着いてからでも遅くない』
ヴァジュラが同意してくれたことで、ファロスはホッとした。
『各機、引き続き時流変動に気を付けて。警戒体制を維持』
テスタの命令に、随伴機達は一斉に『了解』と応えた。
5度目の戦闘の直後、プシュカの軽口が初めて消えた。
『テス! 逆行だ! ヤツら〝戻って〟くるぞ!』
ファロスが振り向くと、後方で朽ちかけていたズィーロット3機の破片群が、逆再生をかけた映像のように、スルスルと復元されていくのが見えた。
そして、完全に復元された3機は、すぐに現状を把握し、こちらに再接近してきた。
『ラバ、あのポイントの変動値は?』
『0.33だ。マイナスじゃない。9秒前に確認したばかりだぞ!』
答えたラバタールは、謂れの無い非難に腹を立てるような口調だ。
しかし、甦ったところで決定的な戦力差と結果は変わらない。
ファロス達はフォトンライフルの最小火力の反撃で、3機を再撃墜した。
『極小規模の重力渦の複合効果だ。こちらのデバイスでは観測出来ないが、連中には視えている可能性が高い』
ヴァジュラの冷静な分析を聞き、ファロスはぞくりとした。
破壊されたところで、このクロノス宙域に多数存在しているらしい局所的逆行現象で復活を果たせてしまうなら、連中の存在は実質無限という事になる。
さらに、それを故意に引き起こせるという事になれば、有限という檻の中に囚われたこちらに勝ち目は無くなってしまう。
その事実が恐ろしくなり、ファロスは朽ちた残骸にフォトンライフルを向けさせると、敵機の破片が見えなくなるまで撃ち続けた。
『…ファロス』
テスタの憐れむような声に、ファロスは我に返った。
「テスタ…ヤツら、あの状態でも戻ってこられるのか?」
『…うん、あたし達の推測では100%ね。…それか、存在した事実が基底世界にレコードされている以上、無からでも復元する可能性だってあるわ』
「そんなバカな」
『冷静になれ。立ち向かう必要はない、深紅の搭乗者』
ゆったりと説いたヴァジュラの言葉に、彼は少し落ち着きを取り戻せたような気がした。
「冷静になる時間があるのは、アンタ達、機械だけだよ、ヴァジュラ」
口をついた直後に、ファロスは後悔して、一言「…ごめん」とだけ謝った。
『構わない。我々は人間に追従するAIだ。それより…』
言って、ヴァジュラの黄金の指が、一点を指差した。
いつかと同じ様な所作に、ファロスは自然と指し示す先を見た。
巨大なブラックホールの脇に、惑星のような物が浮かんでいた。
あり得ない光景に、ファロスは混乱した。
あの位置で、物体が重力やその他の影響を受けないはずがないからだ。
『報告にあった外観情報と一致。対象を一次目標と断定。以降、対象を〈クロノスの独楽〉と呼称する』
ラバタールの声が遠くに聞こえる。
『あのサマがもう、遺産そのものって感じだ』
プシュカは言って、目標までの最適なルートを思索した。
ヴァジュラは全方位警戒の体勢に入って、テスタメントの前に出た。
『接触しよう、隊長』
「わかった」
ファロスは覚悟を決め、白く輝く淵に浮かぶ星に向かって、進行を開始した。
人類に最後に残された、その遺産の正体を求めて。
了
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