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Ⅲ
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魔法使いが崩れ落ちる寸前、抱え込むことができてよかったと息を吐き出す。危なく頭を強打させるところだった。
医者に対して「たのんだ」と眠そうな声で言った魔法使いは、目を固く閉ざしている。いかん、罪も償わせていないというのに死なせてしまったか? だが、まさかこんな知性を感じない魔法使いが難易度の高いしかも対極にある魔法を同時展開させ、その上精霊を呼び出すなんて誰が思う! 魔力の枯渇による死を覚悟してでも発動できるようなものではないというのに!
「っおい魔法使い!! 魔法使い!! 死んだか!?」
「勝手に殺さないでやってください」
「ちょっと見せてください」と医者が無理矢理魔法使いを引きはがし、魔法使いの脈を取り、「はぁ、脅かすなよなぁ」と溜息を吐き出した。
「大丈夫、寝ているだけです。魔法使いによくある症状ですね。ただ身動きもせず寝続けるのでちゃんとしたところに寝かせないと」
「領主様!」とすやすやと眠る女児の側でその親と話をしていたヘルラー様に「ルーチェに客間のベット貸してやってくださいよ。あとなんで捕まったんです?」と話しかける。その腕には魔法使いが抱きかかえられおり、何故か少し苛立った。
「客間よりも私の寝室のベットの方が広いし、そっちを貸すよ」
「いくらご領主様が五十越えとはいえ、男の寝室に寝かせる程俺は馬鹿じゃないですよ」
「しかしなぁいま客間が満杯で、私ソファで寝れるし」
「私の客間を譲りましょう。罪人を見張るためにも丁度いい」
「お前、まだそれを言うのか……」疲れたように片手で顔を覆うヘルラー様に対し、医者は「は? 罪人? なんで?」と疑問の声を上げる。そんな医者から魔法使いを離し、荷物を抱えるように肩に乗せ、俺は歩き出す。
「え、ちょっと待ってください! 罪人ってなんです? この魔法使いは悪いことをするような奴ではないです。俺が保証します!」
「……残念だが、証拠はあがっているのでな。それほどまでに言うならば、王都から魔法使いを一人呼んでくれ、結果は変わらないだろうが」
「ではヘルラー様、失礼します」と敬礼し、部屋を後にした。
そのまま俺に宛がわれた客間へと向かい、部屋へと入る。ベットの上に魔法使いを寝かせるが、身に着けている魔法使い特有のローブやブーツは睡眠の邪魔になるのではないかと思い脱がせる。腰の周りに巻かれていたベルトを解き、首元も窮屈だろうとシャツのボタンを胸元まで外していて、はたと気づく。
俺は何をやっている。いくら寝ているとはいえこいつは罪人であり、そんなことをしてやる義理などない。……しかし、身を挺してまで女児を助けたその心意気は情状酌量の余地があるだろう。
それにしても、この魔法使いは何者だ?
魔法陣を二種類同時展開させ、地の精霊、しかも女王を呼んだ。その時の、黄色から白に近い色へと変わった魔法陣の光を浴びながら、黒く長い髪とローブをはためかせ、凛とした声で謳う姿は圧巻だった。
額へ女王からの口づけを受け取る姿は、――――神々しく、美しかった。
いやいやいやっ俺は何を考えてる! と頭を振り、死んだように眠る魔法使いの上に毛布を被せた。恩情である。女児を助けたからなと自分に言い聞かせ、俺は部屋の外に出て鍵をかけた。
*
女児はその日の朝には目を覚まし、魔力の流れを整えるという薬が入ったココアを「ルー姉ちゃんのココアだ!」と言って美味しそうに飲んでいた。ここから魔法使いが女児に起きることを予測していたのではないかと考えることができるが、魔法使いが話さない限り真相はわからない。
魔法使いが昏々と眠り続けて半月程たつが、全く起きる気配もなく、身動き一つしないため、見張りのついでに面倒を見ている状況だ。時折医者が様子を見に来るが「専門外なんでいつ起きるかわからない」と悔しそうにいい、頭を撫でて去って行く。医者以外にも町の者たちが多く見舞って来るため、何故こんなに慕われているのにも関わらず、この魔法使いは罪を犯したんだろうという疑問が上がる。
……ある日、町の自警団と王都から連れて来た俺の側近の部下と共に訓練を行っていた。
訓練内容は魔物に対する攻撃方法。この町は結界があるため防御は大丈夫だろう。残念ながら魔力を持つものはこの町にいないが、祈りがかけられた武器ならば魔物にも通用するため、祈りがかけられた武器の使い方を学ばせるつもりだ。現在睡眠中の魔法使い以外にも結界を壊しにくる人物がいないとは限らないからな。
洗練された動きではないが、漁業や農作業などで鍛えられた男達である。すぐに使い物になりそうだなと訓練を続ける男達をみていると、視線を感じた。
敵の視線ではないなと、顔をあげれば領主の部屋の窓からヘルラー様が手招きをしていた。これは来いということだろうか。
「おいサイモン、あとは任せた」
「え、やですよ嫌われ者は団長の役目でしょ。イケメンだから若干許されるってのもありますしむかつきますわー」
「お前なら嫌われずに訓練を続けられるだろうが。俺はご領主様に呼ばれたからな、頼んだぞサイモン副団長」
「へーへー」と、さっさと行けというように手を振るサイモンを背に、俺はヘルラー様がいる領主の部屋へと向かう。その前にと、魔法使いの寝ている客間をのぞき、様子を見るが、朝と変わらない、胸元を微かに上下させながら魔法使いは眠り続けている。いつ起きるのか、俺が捕まえたからこそ最後の裁きは俺がくだしたいが、そろそろ王都へ帰らなくてはいけない。どうしたものかと考えを巡らせながら客間の鍵を音を立てぬようそっと掛け直す。
領主様の部屋へと向かい、扉を三回ノック。許可が下りてから開くと、ご領主様の隣にこの町にいる筈もない少年姿の人物が一人、
「よう、馬鹿なわしの教え子よ、本当に馬鹿しおったな馬鹿者が」
「……ヘルラー様、なぜこの方がここに?」
「挨拶も出来んのか馬鹿者が!!」と杖を振り回す男、見た目は若く子ども、少年と言ってもいいが、実際の中身は百を通り越している爺である。魔法使いの多くは精霊と契約し寿命を延ばすが、この男、ジョセフ・メルディンは見た目の年齢も誤魔化している。国王直属魔法使いの一人である男が何故……?
「王は弟のことが心配だーと言ってわしを派遣なさったんじゃ。しっかしこの町は居心地が悪い。食い物も女もイケてるのに何故じゃろうか?」
「ご領主様の御前です、口を慎んでください先生」
「それよりメルディン、広場にある結界の玉はみてくれたかな?」
「ここに来る前に見て来たぞ。ありゃ約千年前に設置されたものじゃ、寿命だったんじゃろうのう。結界に綻びができたのも納得じゃな。……で、それを修繕し魔力を籠め直した魔法使いがおる。あの年代物、しかもくっそ難しい古代エルフ語を解読し、あと百年はもつようにしたんじゃ。その魔法使いはどこにいる?」
「挨拶しとかんとのう」とニヤニヤ笑うメルディンに対し、「ほら言ったろう!」と叫ぶヘルラー様。
いや、まて、メルディン先生は何と言った? 玉は寿命で? それを直したのがあの魔法使いで?
「魔法がいつかけられたのか、知ることの出来る魔法使いは少ないからの仕方がない、といえば簡単じゃ。だがロートよ、お前は罪なき者を拘留し、話も聞かず一方的に疑ったその罪は、どう償う?」
頭の中が真っ白になった。
今まで俺は、間違ったことなどしてこなかった。疑問を感じたらまず裏を取る、今回も犯人かどうか証拠を取っていたが、詰めが甘かったどころか全くと言っていいほど調べ方が間違っていたようだ。
謝罪せねば。いや、しかし魔法使いは今寝続けている。どうすればいいのだ、俺は何をすればいい、あの魔法使いに償うためにはどうしたら……?
まずは王都への帰還を延期しよう。魔法使いが目覚めるまで世話を続けねばならないからな。そうだ、家を買おう。家を買って魔法使いのために心地の良い寝床を作りそこへ寝かせねば。起きたら、店の拡張の費用を支援しよう。そして魔法使いとしての地位向上をさせるために王都へ招待し、服、宝石、欲しがるものはなんでも買ってやらねば……女なのだから焦げ茶色ローブに濃紺のワンピースという古典的な魔法使いの格好ではなくもっと流行りの格好をさせてやろう。王都で人気のある服屋をサイモンから聞き出そう。
「……ヘルラー様、まずはこの町の空き家をいい値で買います。または家を建てるので土地を買わせていただきたい」
「予想外の方向へ思考が走ったのう」
「メルディン!」とヘルラー様が咎めるようにメルディンの名前を呼んだ。ちょうどその時、扉が三回ノックされる音が。ヘルラーが許可をだすと「失礼します」とセバスチャンが入ってくる。その後ろに続いて入ってきたのは、半月ほど眠り続けていた魔法使いルーチェ・チヴェッタで、まだ眠いのか大欠伸をしてみせている。
「旦那様、チヴェッタ様をお連れ致しました」
「あ、あぁ、ご苦労。ルーチェ具合はどうだい?」
「寝てただけなので元気いっぱいですよ。それよりもアンナは大丈夫ですか? あと私はどのくらい寝てました? 三か月くらい?」
「アンナはすぐ起きていつも通り走りまわっているよ。ココアは毎日飲ませるようにご両親に伝えたけど、そろそろ残りが少ないと連絡があったから起きてくれて助かったよ。君は寝ていたのは半月だったよねセバスチャン?」
「はい、チヴェッタ様は十六日間お休みになっておりました」
「十六日? 早すぎないかの? ルーチェ、お前魔法陣を二つ同時に発動の上、精霊を呼んだんじゃろ? 死なないあたり流石じゃが、一年くらいは寝そうなものを」
「……メルディン様のお化けが見えるんですけど、やっと死にましたかねあの人」
「生きちょるわい!! ほれみろわしの可動域!!」とよくわからない動きをし始めるメルディンに、再び大きく欠伸をして「はいはいぎっくり腰になるのはやめてください」と適当にあしらう魔法使い。
そんな魔法使いをみて暫く茫然としていた俺だったが、魔法使いと目が合いハッとする。寝顔は十六日間見続けていたが、瞳の色は知らなかった。髪と同じ黒だったのか、東の大陸出身だろうか……?
いやまて、瞳に見とれている場合ではない、まずは謝罪をしなければ。と魔法使いの前に膝をつくと、目が醒めたのか、魔法使いは大きく目を見開いた。
「魔法使い、ルーチェ・チヴェッタ殿。貴女に罪はなかった、疑い続けた私を許してもらえるとはおもわ、」
「あーはい許す許す。んじゃ私は家帰ってもいいですね? あ、領主様。客間の使用代は分割払いでよろしくお願いしますよ。私お金ないんで」
「領民を助けてくれた人からお金なんてもらわないよ。それより私の好感度さがっちゃったんだけど、どうしたらいいかな……」
「普通に領主やってればいいと思いますよ?」
「私は店が心配なので帰ります」と去って行ったルーチェに、膝をついたまま固まるロート、それをみてゲラゲラと笑うメルディン。混沌としていると領主ヘルラーは溜息を大きく吐き出した。
医者に対して「たのんだ」と眠そうな声で言った魔法使いは、目を固く閉ざしている。いかん、罪も償わせていないというのに死なせてしまったか? だが、まさかこんな知性を感じない魔法使いが難易度の高いしかも対極にある魔法を同時展開させ、その上精霊を呼び出すなんて誰が思う! 魔力の枯渇による死を覚悟してでも発動できるようなものではないというのに!
「っおい魔法使い!! 魔法使い!! 死んだか!?」
「勝手に殺さないでやってください」
「ちょっと見せてください」と医者が無理矢理魔法使いを引きはがし、魔法使いの脈を取り、「はぁ、脅かすなよなぁ」と溜息を吐き出した。
「大丈夫、寝ているだけです。魔法使いによくある症状ですね。ただ身動きもせず寝続けるのでちゃんとしたところに寝かせないと」
「領主様!」とすやすやと眠る女児の側でその親と話をしていたヘルラー様に「ルーチェに客間のベット貸してやってくださいよ。あとなんで捕まったんです?」と話しかける。その腕には魔法使いが抱きかかえられおり、何故か少し苛立った。
「客間よりも私の寝室のベットの方が広いし、そっちを貸すよ」
「いくらご領主様が五十越えとはいえ、男の寝室に寝かせる程俺は馬鹿じゃないですよ」
「しかしなぁいま客間が満杯で、私ソファで寝れるし」
「私の客間を譲りましょう。罪人を見張るためにも丁度いい」
「お前、まだそれを言うのか……」疲れたように片手で顔を覆うヘルラー様に対し、医者は「は? 罪人? なんで?」と疑問の声を上げる。そんな医者から魔法使いを離し、荷物を抱えるように肩に乗せ、俺は歩き出す。
「え、ちょっと待ってください! 罪人ってなんです? この魔法使いは悪いことをするような奴ではないです。俺が保証します!」
「……残念だが、証拠はあがっているのでな。それほどまでに言うならば、王都から魔法使いを一人呼んでくれ、結果は変わらないだろうが」
「ではヘルラー様、失礼します」と敬礼し、部屋を後にした。
そのまま俺に宛がわれた客間へと向かい、部屋へと入る。ベットの上に魔法使いを寝かせるが、身に着けている魔法使い特有のローブやブーツは睡眠の邪魔になるのではないかと思い脱がせる。腰の周りに巻かれていたベルトを解き、首元も窮屈だろうとシャツのボタンを胸元まで外していて、はたと気づく。
俺は何をやっている。いくら寝ているとはいえこいつは罪人であり、そんなことをしてやる義理などない。……しかし、身を挺してまで女児を助けたその心意気は情状酌量の余地があるだろう。
それにしても、この魔法使いは何者だ?
魔法陣を二種類同時展開させ、地の精霊、しかも女王を呼んだ。その時の、黄色から白に近い色へと変わった魔法陣の光を浴びながら、黒く長い髪とローブをはためかせ、凛とした声で謳う姿は圧巻だった。
額へ女王からの口づけを受け取る姿は、――――神々しく、美しかった。
いやいやいやっ俺は何を考えてる! と頭を振り、死んだように眠る魔法使いの上に毛布を被せた。恩情である。女児を助けたからなと自分に言い聞かせ、俺は部屋の外に出て鍵をかけた。
*
女児はその日の朝には目を覚まし、魔力の流れを整えるという薬が入ったココアを「ルー姉ちゃんのココアだ!」と言って美味しそうに飲んでいた。ここから魔法使いが女児に起きることを予測していたのではないかと考えることができるが、魔法使いが話さない限り真相はわからない。
魔法使いが昏々と眠り続けて半月程たつが、全く起きる気配もなく、身動き一つしないため、見張りのついでに面倒を見ている状況だ。時折医者が様子を見に来るが「専門外なんでいつ起きるかわからない」と悔しそうにいい、頭を撫でて去って行く。医者以外にも町の者たちが多く見舞って来るため、何故こんなに慕われているのにも関わらず、この魔法使いは罪を犯したんだろうという疑問が上がる。
……ある日、町の自警団と王都から連れて来た俺の側近の部下と共に訓練を行っていた。
訓練内容は魔物に対する攻撃方法。この町は結界があるため防御は大丈夫だろう。残念ながら魔力を持つものはこの町にいないが、祈りがかけられた武器ならば魔物にも通用するため、祈りがかけられた武器の使い方を学ばせるつもりだ。現在睡眠中の魔法使い以外にも結界を壊しにくる人物がいないとは限らないからな。
洗練された動きではないが、漁業や農作業などで鍛えられた男達である。すぐに使い物になりそうだなと訓練を続ける男達をみていると、視線を感じた。
敵の視線ではないなと、顔をあげれば領主の部屋の窓からヘルラー様が手招きをしていた。これは来いということだろうか。
「おいサイモン、あとは任せた」
「え、やですよ嫌われ者は団長の役目でしょ。イケメンだから若干許されるってのもありますしむかつきますわー」
「お前なら嫌われずに訓練を続けられるだろうが。俺はご領主様に呼ばれたからな、頼んだぞサイモン副団長」
「へーへー」と、さっさと行けというように手を振るサイモンを背に、俺はヘルラー様がいる領主の部屋へと向かう。その前にと、魔法使いの寝ている客間をのぞき、様子を見るが、朝と変わらない、胸元を微かに上下させながら魔法使いは眠り続けている。いつ起きるのか、俺が捕まえたからこそ最後の裁きは俺がくだしたいが、そろそろ王都へ帰らなくてはいけない。どうしたものかと考えを巡らせながら客間の鍵を音を立てぬようそっと掛け直す。
領主様の部屋へと向かい、扉を三回ノック。許可が下りてから開くと、ご領主様の隣にこの町にいる筈もない少年姿の人物が一人、
「よう、馬鹿なわしの教え子よ、本当に馬鹿しおったな馬鹿者が」
「……ヘルラー様、なぜこの方がここに?」
「挨拶も出来んのか馬鹿者が!!」と杖を振り回す男、見た目は若く子ども、少年と言ってもいいが、実際の中身は百を通り越している爺である。魔法使いの多くは精霊と契約し寿命を延ばすが、この男、ジョセフ・メルディンは見た目の年齢も誤魔化している。国王直属魔法使いの一人である男が何故……?
「王は弟のことが心配だーと言ってわしを派遣なさったんじゃ。しっかしこの町は居心地が悪い。食い物も女もイケてるのに何故じゃろうか?」
「ご領主様の御前です、口を慎んでください先生」
「それよりメルディン、広場にある結界の玉はみてくれたかな?」
「ここに来る前に見て来たぞ。ありゃ約千年前に設置されたものじゃ、寿命だったんじゃろうのう。結界に綻びができたのも納得じゃな。……で、それを修繕し魔力を籠め直した魔法使いがおる。あの年代物、しかもくっそ難しい古代エルフ語を解読し、あと百年はもつようにしたんじゃ。その魔法使いはどこにいる?」
「挨拶しとかんとのう」とニヤニヤ笑うメルディンに対し、「ほら言ったろう!」と叫ぶヘルラー様。
いや、まて、メルディン先生は何と言った? 玉は寿命で? それを直したのがあの魔法使いで?
「魔法がいつかけられたのか、知ることの出来る魔法使いは少ないからの仕方がない、といえば簡単じゃ。だがロートよ、お前は罪なき者を拘留し、話も聞かず一方的に疑ったその罪は、どう償う?」
頭の中が真っ白になった。
今まで俺は、間違ったことなどしてこなかった。疑問を感じたらまず裏を取る、今回も犯人かどうか証拠を取っていたが、詰めが甘かったどころか全くと言っていいほど調べ方が間違っていたようだ。
謝罪せねば。いや、しかし魔法使いは今寝続けている。どうすればいいのだ、俺は何をすればいい、あの魔法使いに償うためにはどうしたら……?
まずは王都への帰還を延期しよう。魔法使いが目覚めるまで世話を続けねばならないからな。そうだ、家を買おう。家を買って魔法使いのために心地の良い寝床を作りそこへ寝かせねば。起きたら、店の拡張の費用を支援しよう。そして魔法使いとしての地位向上をさせるために王都へ招待し、服、宝石、欲しがるものはなんでも買ってやらねば……女なのだから焦げ茶色ローブに濃紺のワンピースという古典的な魔法使いの格好ではなくもっと流行りの格好をさせてやろう。王都で人気のある服屋をサイモンから聞き出そう。
「……ヘルラー様、まずはこの町の空き家をいい値で買います。または家を建てるので土地を買わせていただきたい」
「予想外の方向へ思考が走ったのう」
「メルディン!」とヘルラー様が咎めるようにメルディンの名前を呼んだ。ちょうどその時、扉が三回ノックされる音が。ヘルラーが許可をだすと「失礼します」とセバスチャンが入ってくる。その後ろに続いて入ってきたのは、半月ほど眠り続けていた魔法使いルーチェ・チヴェッタで、まだ眠いのか大欠伸をしてみせている。
「旦那様、チヴェッタ様をお連れ致しました」
「あ、あぁ、ご苦労。ルーチェ具合はどうだい?」
「寝てただけなので元気いっぱいですよ。それよりもアンナは大丈夫ですか? あと私はどのくらい寝てました? 三か月くらい?」
「アンナはすぐ起きていつも通り走りまわっているよ。ココアは毎日飲ませるようにご両親に伝えたけど、そろそろ残りが少ないと連絡があったから起きてくれて助かったよ。君は寝ていたのは半月だったよねセバスチャン?」
「はい、チヴェッタ様は十六日間お休みになっておりました」
「十六日? 早すぎないかの? ルーチェ、お前魔法陣を二つ同時に発動の上、精霊を呼んだんじゃろ? 死なないあたり流石じゃが、一年くらいは寝そうなものを」
「……メルディン様のお化けが見えるんですけど、やっと死にましたかねあの人」
「生きちょるわい!! ほれみろわしの可動域!!」とよくわからない動きをし始めるメルディンに、再び大きく欠伸をして「はいはいぎっくり腰になるのはやめてください」と適当にあしらう魔法使い。
そんな魔法使いをみて暫く茫然としていた俺だったが、魔法使いと目が合いハッとする。寝顔は十六日間見続けていたが、瞳の色は知らなかった。髪と同じ黒だったのか、東の大陸出身だろうか……?
いやまて、瞳に見とれている場合ではない、まずは謝罪をしなければ。と魔法使いの前に膝をつくと、目が醒めたのか、魔法使いは大きく目を見開いた。
「魔法使い、ルーチェ・チヴェッタ殿。貴女に罪はなかった、疑い続けた私を許してもらえるとはおもわ、」
「あーはい許す許す。んじゃ私は家帰ってもいいですね? あ、領主様。客間の使用代は分割払いでよろしくお願いしますよ。私お金ないんで」
「領民を助けてくれた人からお金なんてもらわないよ。それより私の好感度さがっちゃったんだけど、どうしたらいいかな……」
「普通に領主やってればいいと思いますよ?」
「私は店が心配なので帰ります」と去って行ったルーチェに、膝をついたまま固まるロート、それをみてゲラゲラと笑うメルディン。混沌としていると領主ヘルラーは溜息を大きく吐き出した。
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