乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
24 / 26

ドイツェルン国 前編

しおりを挟む
 ドイツェルンは軍事国家だ。対キメラなどの武器や装備の先駆者であり、それ故特S級が集まる。改善点や、要望を取り入れ、より強化されたものを生み出していく。

 「おお、透子。無事で良かった」

 特S級、名実共にナンバーワンの男、ウォンが、透子の姿を見つけて嬉しそうに側に来て頭を撫でた。

 「ウォン様も、ご無事で何よりです」

 透子の三倍はある男が、透子の頭をガシガシ撫でていることに、首がもげてしまわないか心配になるが、そこは特S同士。透子は難なく受け入れている。

 「アイツ、いくら同じ特Sって言っても、馴れ馴れしすぎないかな」

 マリノが冷たく笑う。

 ここはドイツェルンが誇る、最高設備の軍事演習場。新しい装備や武器の訓練にも使われる。見学は自由だ。こんな世界。国同士で争うことなどない。キメラや野生生物などへ対抗するための武力が上がるなら、すべてを見せ、より良いものを提案してもらえればいい。そのため、国同士の共同開発も頻繁に行われている。軍事機密というものはない。

 「ウォンですか。トーコよりも強いことは認めますが、あの距離感は認められませんね」

 ノーマの声が刺々しい。その直後。

 「「「「あっ」」」」

 四人の声が重なった。

 ウォンが透子の両脇に手を差し込んで持ち上げると、そのまま自身の左腕に座らせ、スタスタと連れて行ってしまった。

 「え、まさか」

 二人が消えた扉に、マリノは驚愕の声を出す。

 「行くぞ、おまえたちっ」

 ジーンが駆け出す。三人も慌てて走り出した。

 ウォンと透子が入った場所。模擬戦を行う闘技場だった。



 「すごいすごいすごいすごいっ。トーコが稽古を付けてもらっているなんてっ」
 「初めて見ますが、なんと凄まじい」
 「これが特S。並大抵の努力ではなれないことはわかっていたけれど、本当に凄まじいね」
 「私もこの国に住んではいるが、なかなか特S同士のものは見られないぞ。運がいいな、おまえたち」

 マリノが興奮で身を乗り出し、ノーマとエドガーは驚愕に目を見開き、ジーンも前のめりに魅入った。
 その凄まじい稽古、と言っていいのか、は、一時間にも及んだ。稽古の終わりは突然訪れたのだ。

 透子が倒れることによって。

 「「「「トーコ!!」」」」

 四人が悲鳴のように透子の名を呼び、観客席から透子の元へ走り出すと、闘技場からの扉が開き、透子を抱えたウォンが入ってきた。

 「ひどいよ、ウォン!」

 涙を零しながらマリノがウォンを睨みつけるが、ウォンは気にも止めない。

 「俺たちの訓練はいつもこうですよ。現場で意識を失うなんてあり得ませんから、自分の限界を知らなきゃならないんです」

 事切れたように、突然倒れた透子。体力も集中力も限界まで使い果たしたのだ。

 「おまえはまだまだ伸びる。前回の限界より五分も延ばした。よく頑張ったな。偉いぞ、透子」

 ウォンの左肩に頭を乗せている透子のその耳元に、優しい声でウォンが言った。
 親愛の情がこれでもかと溢れるその目に、四人は何も言えなくなった。



*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君の秘密

朝陽七彩
恋愛
「フン‼」 「うるせぇ‼」 「黙れ‼」 そんなことを言って周りから恐れられている、君。 ……でも。 私は知ってしまった、君の秘密を。 **⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆* 佐伯 杏樹(さえき あんじゅ) 市野瀬大翔(いちのせ ひろと) **⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆*

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

Blue Rose~傍役令嬢のアフターケア~

夢草 蝶
恋愛
 ある社交パーティーの場でたくさんの殿方を侍らせているロマンス小説のヒロインみたいな少女。  私は彼女たちを気にせず、友人たちとの談笑を楽しんだり、軽食に舌鼓を打っていた。  おや? ヒロイン少女が王子に何かを耳打ちしている。  何を言っているのだろうと眺めてたら、王子がびっくりしたように私を見て、こちらへやって来た。  腕を捕まれて──うぇ!? 何事!?  休憩室に連れていかれると、王子は気まずそうに言った。 「あのさ、ないとは思うけど、一応確認しておくな。お前、マロンに嫌がらせとかした?」  ・・・・・・はぁ?  これは、お馬鹿ヒロインによって黒歴史を刻まれた者たちを成り行きでアフターケアする令嬢の物語である。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...