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ドイツェルン国 前編
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ドイツェルンは軍事国家だ。対キメラなどの武器や装備の先駆者であり、それ故特S級が集まる。改善点や、要望を取り入れ、より強化されたものを生み出していく。
「おお、透子。無事で良かった」
特S級、名実共にナンバーワンの男、ウォンが、透子の姿を見つけて嬉しそうに側に来て頭を撫でた。
「ウォン様も、ご無事で何よりです」
透子の三倍はある男が、透子の頭をガシガシ撫でていることに、首がもげてしまわないか心配になるが、そこは特S同士。透子は難なく受け入れている。
「アイツ、いくら同じ特Sって言っても、馴れ馴れしすぎないかな」
マリノが冷たく笑う。
ここはドイツェルンが誇る、最高設備の軍事演習場。新しい装備や武器の訓練にも使われる。見学は自由だ。こんな世界。国同士で争うことなどない。キメラや野生生物などへ対抗するための武力が上がるなら、すべてを見せ、より良いものを提案してもらえればいい。そのため、国同士の共同開発も頻繁に行われている。軍事機密というものはない。
「ウォンですか。トーコよりも強いことは認めますが、あの距離感は認められませんね」
ノーマの声が刺々しい。その直後。
「「「「あっ」」」」
四人の声が重なった。
ウォンが透子の両脇に手を差し込んで持ち上げると、そのまま自身の左腕に座らせ、スタスタと連れて行ってしまった。
「え、まさか」
二人が消えた扉に、マリノは驚愕の声を出す。
「行くぞ、おまえたちっ」
ジーンが駆け出す。三人も慌てて走り出した。
ウォンと透子が入った場所。模擬戦を行う闘技場だった。
「すごいすごいすごいすごいっ。トーコが稽古を付けてもらっているなんてっ」
「初めて見ますが、なんと凄まじい」
「これが特S。並大抵の努力ではなれないことはわかっていたけれど、本当に凄まじいね」
「私もこの国に住んではいるが、なかなか特S同士のものは見られないぞ。運がいいな、おまえたち」
マリノが興奮で身を乗り出し、ノーマとエドガーは驚愕に目を見開き、ジーンも前のめりに魅入った。
その凄まじい稽古、と言っていいのか、は、一時間にも及んだ。稽古の終わりは突然訪れたのだ。
透子が倒れることによって。
「「「「トーコ!!」」」」
四人が悲鳴のように透子の名を呼び、観客席から透子の元へ走り出すと、闘技場からの扉が開き、透子を抱えたウォンが入ってきた。
「ひどいよ、ウォン!」
涙を零しながらマリノがウォンを睨みつけるが、ウォンは気にも止めない。
「俺たちの訓練はいつもこうですよ。現場で意識を失うなんてあり得ませんから、自分の限界を知らなきゃならないんです」
事切れたように、突然倒れた透子。体力も集中力も限界まで使い果たしたのだ。
「おまえはまだまだ伸びる。前回の限界より五分も延ばした。よく頑張ったな。偉いぞ、透子」
ウォンの左肩に頭を乗せている透子のその耳元に、優しい声でウォンが言った。
親愛の情がこれでもかと溢れるその目に、四人は何も言えなくなった。
*つづく*
「おお、透子。無事で良かった」
特S級、名実共にナンバーワンの男、ウォンが、透子の姿を見つけて嬉しそうに側に来て頭を撫でた。
「ウォン様も、ご無事で何よりです」
透子の三倍はある男が、透子の頭をガシガシ撫でていることに、首がもげてしまわないか心配になるが、そこは特S同士。透子は難なく受け入れている。
「アイツ、いくら同じ特Sって言っても、馴れ馴れしすぎないかな」
マリノが冷たく笑う。
ここはドイツェルンが誇る、最高設備の軍事演習場。新しい装備や武器の訓練にも使われる。見学は自由だ。こんな世界。国同士で争うことなどない。キメラや野生生物などへ対抗するための武力が上がるなら、すべてを見せ、より良いものを提案してもらえればいい。そのため、国同士の共同開発も頻繁に行われている。軍事機密というものはない。
「ウォンですか。トーコよりも強いことは認めますが、あの距離感は認められませんね」
ノーマの声が刺々しい。その直後。
「「「「あっ」」」」
四人の声が重なった。
ウォンが透子の両脇に手を差し込んで持ち上げると、そのまま自身の左腕に座らせ、スタスタと連れて行ってしまった。
「え、まさか」
二人が消えた扉に、マリノは驚愕の声を出す。
「行くぞ、おまえたちっ」
ジーンが駆け出す。三人も慌てて走り出した。
ウォンと透子が入った場所。模擬戦を行う闘技場だった。
「すごいすごいすごいすごいっ。トーコが稽古を付けてもらっているなんてっ」
「初めて見ますが、なんと凄まじい」
「これが特S。並大抵の努力ではなれないことはわかっていたけれど、本当に凄まじいね」
「私もこの国に住んではいるが、なかなか特S同士のものは見られないぞ。運がいいな、おまえたち」
マリノが興奮で身を乗り出し、ノーマとエドガーは驚愕に目を見開き、ジーンも前のめりに魅入った。
その凄まじい稽古、と言っていいのか、は、一時間にも及んだ。稽古の終わりは突然訪れたのだ。
透子が倒れることによって。
「「「「トーコ!!」」」」
四人が悲鳴のように透子の名を呼び、観客席から透子の元へ走り出すと、闘技場からの扉が開き、透子を抱えたウォンが入ってきた。
「ひどいよ、ウォン!」
涙を零しながらマリノがウォンを睨みつけるが、ウォンは気にも止めない。
「俺たちの訓練はいつもこうですよ。現場で意識を失うなんてあり得ませんから、自分の限界を知らなきゃならないんです」
事切れたように、突然倒れた透子。体力も集中力も限界まで使い果たしたのだ。
「おまえはまだまだ伸びる。前回の限界より五分も延ばした。よく頑張ったな。偉いぞ、透子」
ウォンの左肩に頭を乗せている透子のその耳元に、優しい声でウォンが言った。
親愛の情がこれでもかと溢れるその目に、四人は何も言えなくなった。
*つづく*
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