乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
22 / 26

ラフランス国 後編

しおりを挟む
 フワリと甲板に降り立ったのは。

 「「「トーコ!!」」」

 三人の声に透子はひとつ頷くと、背負っていた大型の銃を下ろす。深海生物の頭の煙は、どうやらコレのようだ。そしてシューズタイプのエアー以外の装備を素早く外し、剣一本だけを持って飛び出した。僅か数秒の早業だ。

 そして、飛び出してからも一瞬だった。

 護衛たちが避難を促すも、残っている者たちは透子が特S級と知っている者たちなのだろう。安心感と、その戦い振りを見たくて、なかなか避難をしてくれない。かく言う護衛たちも、透子の、特S級の戦闘を間近で見られることに、誘導もどこか気もそぞろだ。護衛にあるまじきことだが、特S級とは、それほどまでに圧倒的だった。

 透子は無数の触手を難なくかいくぐり、無数にある目の中の、頭頂部にある目に迷うことなく剣を突き刺した。深海生物の断末魔が響き渡ると、力を失った触手たちが重力に逆らうことなく海へと落ちていく。

 呆気ない討伐に、護衛たちは唸る。透子は簡単そうに討伐をしたが、自分たちでは討伐はおろか、救助をするだけで何人犠牲にしたことだろう。

 これが、特S。

 護衛たちが魅入る中、拘束力のなくなった触手から落ちかけるノーマを、危うげなく透子はキャッチする。捕まった護衛たちは、自力で何とか出来るので放置だ。

 「すぐに船へお連れします。もう少しだけご辛抱を」

 お姫様抱っこされているノーマは、紅潮する頬とうるさい心臓と共に、返り血に濡れた透子を、ジッと見つめた。



 「ミュゲル様、申し訳ありません」

 甲板に降り立つと、散乱したカフェの椅子で無事なものを見つけ、そこにノーマを座らせる。

 「どこか痛いところや違和感のあるところはありませんか?」

 手袋を脱ぎ、服の上から体を確かめる。

 「い、いえ、どこも、何とも、ありません」

 ノーマの言葉に頷きつつ、

 「すぐに医者の手配をいたします。向こうに着いたら、念のため診てもらってください」

 そう透子は言った。

 「は、はい」

 目的地の島は目前だ。三十分もせず到着する。

 「ミュゲル様、本当に、お詫びのしようもございません」

 護衛隊長が頭を下げる。

 「今回が無事であったからいいとは言いません。ですが、あなた方が遊んでいたわけではないことも充分理解しております。不問とは言えませんが、事を荒立てるようなことはしませんよ」

 ノーマの言葉に、護衛隊長はさらに深く頭を下げる。

 「お心遣いに感謝いたします。残りの船旅、引き続き警戒して参りますので、今暫く、隊長の務めを果たさせていただきます」

 ノーマが頷くと、護衛隊長は任務に戻って行った。

 「ではミュゲル様、参りましょう」

 透子の言葉に、ノーマは首を傾げた。どこへ行くというのだろう。

 「このままお運びします。船より速いです」

 そう言うと、透子はノーマを再びお姫様抱っこをすると、後ろ向きで船を飛び出した。

 「しっかり掴まってください。五分ほどで到着します。風圧で息がしづらいかと思いますので、私の体に出来る限り顔を近付けていてください」

 風除けとなるため、後ろ向き飛行をしてくれている。ノーマは透子の首に回した手にギュッと力を入れ、顔を寄せる。それを確認すると、透子はさらに速度を上げた。

 ノーマの心臓は、破裂するかと思うほど速かった。

 どうしよう。可愛いのに、こんなに可愛いのに、こんなにカッコイイなんて!

 男前すぎる透子に、ますます傾倒していくノーマだった。





*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。 そんな彼に見事に捕まる主人公。 そんなお話です。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...