乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

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―ノーマの恋―

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 私には姉が三人いる。

 ありがたいことに、お金に苦労をすることはなかったので、姉たちは自分を磨き上げることに専念できた。髪の毛一本から足の爪の先まで、美しく磨き上げられた姉たち。それを見て育ったためか、女性は綺麗であることが当然だと思っていた。柔らかな言葉遣いに傷一つない滑らかな肌。好きな話は恋に美容に甘いもの。可愛いと綺麗をたくさん詰め込んで、女性は出来上がっている。

 そう、本気で思っていた。



 初めてトーコを見た時、本気で少年だと思った。失礼を承知で言えば、自分の知る女性と、かけ離れていた。護衛という職業上、着飾っているとは当然思わない。けれど、男性と見間違えるほどだとは思わなかった。女性の護衛は圧倒的に少ない。多くは、キメラの危険が低く、然程長い距離ではないシールド間を移動する際に、見かける程度だ。それでも、男性に見間違えるようなことはなかった。化粧もドレスもないけれど、やはり女性は可愛いと綺麗で出来ているから、女性であることを隠せない。

 だから、戸惑った。

 可愛くない、綺麗ではない、ということではない。
 男性だって可愛い顔もいれば、綺麗な顔もいる。けれど、女性と見間違えたりしない。女性特有のニオイがないから。ニオイと言っても、実際に匂いがするわけではない。雰囲気というか、オーラというか、そういうものだ。

 そのニオイが、トーコからは一切しなかった。

 だからだろうか。

 気になって彼女を目で追ってしまう。

 そして見てしまった。

 可愛いとは、綺麗とは無縁の、返り血。人外の血に濡れたその顔が、今まで見たどんな女性よりも、


 美しい


 そう、思った。

 それからの私は、トーコを求めた。護衛が必要なときは、許す限り、トーコを指名した。彼女を知りたかった。どんなものが好きで、何が嫌いで、どういうものに興味があるのか。だから私は聞いた。けれど彼女の答えは、わからない、だった。ならばと、彼女に贈り物をした。女性が喜びそうなものを選び、少しでも気を惹かれるものがあるなら、と。

 結果、トーコは何一つ受け取ってくれなかった。花もアクセサリーも宝石も服もバッグも本も、何も。

 「興味がなくても、私が贈りたいから贈っているのです。どうか、受け取ってくれませんか」

 そう言うと、トーコは首を横に振った。

 「尚のこと、受け取れません。個人的な接触は禁止されています」

 ああ、職務に忠実なトーコらしい。

 けれど、その忠実さが今は酷くわずらわしい。私からの贈り物を受け取って、それで飾ったトーコを見たい。ありがとうございます、と遠慮がちにプレゼントに手を伸ばし、少し不安そうにしながら、似合いますか、なんて上目遣いをされたい。

 三十手前の男が、二十にもなっていない少女に恋をしている、なんて、少し前の自分では考えられない。年の差もそうだが、一人の女性を見つめることが出来るとは思えなかったからだ。

 私にとって、女性はすべてが平等に接すベき、守るべき存在であった。父が大病を患い、早々に当主の座を退いたために、若くして当主の座に着いた私に、周囲はすぐに跡継ぎを、と数々の女性をあてがおうとしてきたが、のらりくらりとかわしている。姉が三人もいるのだ。その子どもの内の誰かを跡継ぎにすればいいと思っている。それほど、私は誰か一人を特別に出来なかった

 「それは誰にでも優しいノーマらしいけれど」
 「誰にでも平等ということは、誰のことも見ていないということよ、ノーマ」
 「みんな同じは、誰も特別ではないということは、誰にも興味がないことと同じ。それは、悲しいことよ、ノーマ」

 姉たちは、そう言った。
 今ではその言葉の意味が、よくわかる。
 私に“特別”が出来たことを喜んだ姉たちは、喜々として協力をしてくれる。

 それなのに、どうにもままならない。

 そのままならないことすら楽しいと思えるのだから、重症かもしれない。




*つづく*
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