乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

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リタイア国

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 リタイア国は、世界的に有名な美食の国だ。

 「トーコトーコ!これ、これも食べてみて」

 リタイア国に到着し、また別の任務を終え、透子が基地に戻ったのはリタイア国に着いて五日目の昼のことだった。そんな透子を待っていたのは、マリノのお国自慢であるグルメの数々。他の隊員たちも食べられるよう、立食パーティーのように配膳されている。あれもこれもと差し出され、透子は苦笑しながら付き合っていた。

 「疲れているの、わかってるんだ。今夜、ラフランスに発つからそれまで体を休ませないとってわかってる。でも」

 リタイア国に着いて、今初めてマトモに話が出来たのだ。何のもてなしもしないまま、ラフランスに発ってしまうことが、悲しかった。それは、マリノの我が儘だということもわかっている。

 「アスカーノ様」

 しょげて俯いたマリノを、透子は呼んだ。顔を上げたマリノの前に、フォークに刺さったニョッキがあった。

 「どうぞ、アスカーノ様」

 微かに口元に笑みを浮かべた透子が、マリノの口元にニョッキを近付ける。所謂いわゆる、あーん、である。まさかの出来事に真っ赤になったマリノに、さらにニョッキが近付く。ふるふると震えながら、口を開けると、そっとニョッキを食べさせてくれた。

 「これ、おいしいです。また、お願いしたいです、アスカーノ様」

 そう言って微笑んだ透子に、マリノだけでなく、他の三人もノックアウト。マリノはフラリと壁に背をつき、ズルズルと座り込んだ。不意打ちは、心臓によろしくない。だが、さらなる追撃が待っていた。真っ赤になってへたり込むマリノの背にする壁に、透子の左手がトン、とつけられた。右手がそっとマリノの顎を上向かせる。驚き混乱するマリノを余所に、その親指がそっとマリノの口元を拭う仕草をすると、そのまま指が少しだけ口の中に入る。

 「ついてしまいました」

 ニョッキにまぶされたものがマリノの口元についてしまい、それを拭って口に入れてくれたようだ。完全にキャパオーバー。マリノはフラリと倒れた。しかし、頭が床につく前に難なく透子が抱きとめ、軽々とお姫様抱っこをする。

 「アスカーノ様、疲れていらっしゃったのですね」

 違うよ!

 その場にいた全員が、心でツッコんだ。

 マリノを救護室へ運ぶために、透子が出て行ってしまうと、ジーンが唸る。

 「何だ、あれは。何なんだ。羨ましさしかないではないか、クソッ」
 「ロベロニアもどうしてくれようと思いましたが、これも、アスカーノも、なかなかどうして」

 ノーマも笑ってはいるが、目がまったく笑っていない。

 「みんな怖いよ。気持ちはわかるけどね。でも、大収穫があったじゃないか」

 エドガーが笑うと、ノーマとジーンも苦笑いをした。

 「アスカーノに、感謝、でしょうか」
 「初めてだな。トーコのおねだりと言えないが一応おねだり」

 “これ、おいしいです。また、お願いしたいです、アスカーノ様”

 「それもまた、アスカーノへの嫉妬も大きいんだけどね」

 エドガーも苦笑して肩を竦めた。




*つづく*

マリノが用意したものなので、透子は毒を疑っていません。自分も食べているからと言うのもあります。
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