乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

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―エドガーの恋―

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 何もかも、勝手が違う。

 華やかな世界、誰もが羨む地位、虚飾にまみれたこの上流階級せかいで、生き抜くためのすべを身に付けて。
 どう言えばどう反応するのか。権謀術数けんぼうじゅっすうけていく中、一人の女性と出会う。

 もううに三十路を越えている。周囲の声もうるさくなっている。早く跡継ぎの顔を見せろと、口を開けばそればかり。秋波を送ってくる女性も後を絶たない。どうせ誰を選んでも変わらない。言い寄る者たちの容姿なんて、みんな同じ。違いなんてわからない。ならば、一番自分にメリットのある者を。

 そう思っていたのに。

 時々見かけるだけの護衛が、なぜこんなにも気になるのだろう。初めて会ったあの日から。

 あの、目を見た時から。

 護衛がつくたび、彼女の姿を探している。彼女がいないと落胆し、その姿を見つけると胸に広がる何か。

 「やあ、トーコ。今日はよろしくね」

 必ず声をかける。トーコは、よろしくお願いします、と頭を下げるだけで、すぐに離れて行こうとする。だから私は話を振り続ける。迷惑そうにするでもなく、だからと言って嬉しそうにするでもなく。ただ淡々と答えるトーコに、いつからだろう、笑って欲しいと思うようになったのは。

 自分の半分ほどしか生きていないトーコ。

 今まで接してきた女性たちと、生きている世界がまったく違うトーコ。女性の喜ぶ言葉を口にしても、喜ぶ行動をしても、反応は薄い。

 何をすれば喜ぶの。

 何をすれば反応するの。

 何をすれば笑ってくれるの。


 どうすれば、好きになってくれるの。


 数えるくらいしか会ったことがないのに、どうしてこんなにも惹かれるのだろう。

 トーコとの話題作りのために、トーコの国のことを調べて。何が好きなのか、乏しい表情から読み取って。トーコをこの手に出来るなら、どんな努力も惜しまない。

 いつだったか、ある女性に言われた。

 “手に入らないから欲しがっているだけなのよ。”

 私がその女性になびかない悔し紛れからか、そう言われたことがある。

 そうなのだろうか。

 この気持ちは、そんな子どものような感情なのだろうか。
 手に入ったら、途端にいらなくなるような。

 だけど、トーコが笑うと、滅多にないけれど、トーコが笑うと、すごく、すごく幸せな気持ちになるんだ。トーコの凜々しい姿に、年甲斐もなく心臓が跳ねる。らしくもなく、恥ずかしくて目を合わせられないときだってある。それでも、カッコイイと思われたくて、余裕のある大人だと思われたくて。それなのに、トーコが見ていると思うと、いつも出来ていることさえ出来なくなって。ダメな大人だって思われてしまうような場面ばかりを見せてしまって。

 ああ、本当にままならないよ。

 ねえ、トーコ。それでも呆れず、私の気持ちを聞いて欲しいんだ。




*つづく*
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