14 / 26
透子の常識セレブの常識
しおりを挟む
特S階級の護衛は多忙だ。世界に十一人しかいないため、任務が途切れない。だが、休息は大事だ。二週間に一日は必ず休むことを義務付けられている。出来れば一週間に一回。火の本国を出発する前日、透子は休息日だった。
「ええ?何もないよ、トーコ」
四人は透子が借りていた部屋を訪れた。部屋を見て、マリノが困惑の声を上げる。最低限の物しかなくて殺風景、どころではない。本当に何もないのだ。
「明日発ちますから、何も不思議ではありませんよ」
驚かれたことに不思議そうにする透子。
「だって、それならトーコはどこで眠るの?」
「ああ、それは問題ありません。キメラ討伐の時など野営です。ここは雨風凌げるので快適ですよ」
二、三日眠らなくても何の問題もありませんし、と平然と答える透子に、四人は眉を顰めた。わかっているようでわかっていない、護衛たちの苦労。透子は、そんなことは苦労ではない、護衛として当然のことだ、とやはり不思議そうに答えた。
「どうしよう。トーコの常識が常識じゃないよ」
マリノがオロオロとこっそり発言する。三人もショックを受けたように頷く。
「大変だとは思っていたが、過酷すぎではないか?」
ジーンが首を捻る。
「これではトーコが過労死してしまいます。はっ。法律、変えます?」
「ミュゲルの当主もたまにはいいこと言うね」
ノーマの言葉にエドガーが乗り、ジーンとマリノも悪い顔をした。すると。
「おかしなことを言うのは止めてください」
呆れた透子の顔があった。
「ひとつ法を歪めると、別のところに矛盾が生じる。私たちはわかっていてこの職に就いているのです。環境や待遇を改善したいなら、自分たちで動きますよ」
それこそ、世界を盾にして。
四人は頬を染め、透子を見る。自分たちが惚れた相手の、伸びた背筋が眩しい。真っ直ぐな視線に射貫かれ、上手く息が出来ない。
「ああ、トーコ。ホント、なんでそんなにカッコイイの」
マリノが透子を抱き締める。額に、瞼に、鼻に、頬に、キスの雨を降らせる。
「トーコ。明日行くところはファブリティッシュでしょ。私も一緒に行くからね」
「私も行くぞ、トーコ」
「もちろん私も行きますよ、トーコ」
マリノ、ジーン、ノーマがそう言うと、エドガーは笑った。
「我が国へ来ていただけるなら、相応のもてなしをいたしますよ。どうぞ心ゆくまで堪能してください」
エドガーがわざとらしい口調でそう言うと、
「もちろん、トーコに構う暇がないくらいもてなしてもらうよ」
「ああ、是非満足いくまでもてなしてもらおう」
「存分にもてなしていただきましょう。楽しみですねぇ」
マリノ、ジーン、ノーマがからかうようにそう言った。
*つづく*
「ええ?何もないよ、トーコ」
四人は透子が借りていた部屋を訪れた。部屋を見て、マリノが困惑の声を上げる。最低限の物しかなくて殺風景、どころではない。本当に何もないのだ。
「明日発ちますから、何も不思議ではありませんよ」
驚かれたことに不思議そうにする透子。
「だって、それならトーコはどこで眠るの?」
「ああ、それは問題ありません。キメラ討伐の時など野営です。ここは雨風凌げるので快適ですよ」
二、三日眠らなくても何の問題もありませんし、と平然と答える透子に、四人は眉を顰めた。わかっているようでわかっていない、護衛たちの苦労。透子は、そんなことは苦労ではない、護衛として当然のことだ、とやはり不思議そうに答えた。
「どうしよう。トーコの常識が常識じゃないよ」
マリノがオロオロとこっそり発言する。三人もショックを受けたように頷く。
「大変だとは思っていたが、過酷すぎではないか?」
ジーンが首を捻る。
「これではトーコが過労死してしまいます。はっ。法律、変えます?」
「ミュゲルの当主もたまにはいいこと言うね」
ノーマの言葉にエドガーが乗り、ジーンとマリノも悪い顔をした。すると。
「おかしなことを言うのは止めてください」
呆れた透子の顔があった。
「ひとつ法を歪めると、別のところに矛盾が生じる。私たちはわかっていてこの職に就いているのです。環境や待遇を改善したいなら、自分たちで動きますよ」
それこそ、世界を盾にして。
四人は頬を染め、透子を見る。自分たちが惚れた相手の、伸びた背筋が眩しい。真っ直ぐな視線に射貫かれ、上手く息が出来ない。
「ああ、トーコ。ホント、なんでそんなにカッコイイの」
マリノが透子を抱き締める。額に、瞼に、鼻に、頬に、キスの雨を降らせる。
「トーコ。明日行くところはファブリティッシュでしょ。私も一緒に行くからね」
「私も行くぞ、トーコ」
「もちろん私も行きますよ、トーコ」
マリノ、ジーン、ノーマがそう言うと、エドガーは笑った。
「我が国へ来ていただけるなら、相応のもてなしをいたしますよ。どうぞ心ゆくまで堪能してください」
エドガーがわざとらしい口調でそう言うと、
「もちろん、トーコに構う暇がないくらいもてなしてもらうよ」
「ああ、是非満足いくまでもてなしてもらおう」
「存分にもてなしていただきましょう。楽しみですねぇ」
マリノ、ジーン、ノーマがからかうようにそう言った。
*つづく*
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様


【完結】辺境伯令嬢は国境で騎士領主になりたいのに!
葉桜鹿乃
恋愛
辺境伯令嬢バーバレラ・ドミニクは日夜剣と政治、国境の守りに必要な交渉術や社交性、地理といった勉強に励んでいた。いずれ、辺境伯となった時、騎士として最前線に立ち国を守る、そんな夢を持っていた。
社交界には興味はなく、王都に行ったこともない。
一人娘なのもあって、いつかは誰か婿をとって家督は自分が継ぐと言って譲らず、父親に成人した17の時に誓約書まで書かせていた。
そして20歳の初夏に差し掛かる頃、王都と領地を往来する両親が青い顔で帰ってきた。
何事かと話を聞いたら、バーバレラが生まれる前に父親は「互いの子が20歳まで独身なら結婚させよう」と、親友の前公爵と約束を交わして、酒の勢いで証書まで書いて母印を押していたらしい?!
その上王都では、バーバレラの凄まじい悪評(あだ名は『怪物姫』)がいつの間にか広がっていて……?!
お相手は1つ年上の、文武両道・眉目秀麗・社交性にだけは難あり毒舌無愛想という現公爵セルゲウス・ユージーンで……このままだとバーバレラは公爵夫人になる事に!
そして、セルゲウスはバーバレラを何故かとても溺愛したがっていた?!
そのタイミングを見計らっていたように、隣の領地のお婿さん候補だった、伯爵家次男坊まで求愛をしに寄ってきた!が、その次男坊、バーバレラの前でだけは高圧的なモラハラ男……?!
波瀾万丈のコメディタッチなすれ違い婚姻譚!ハッピーエンドは保証します!
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも別名義で掲載予定です。
※1日1話更新、できるだけ2話更新を目指しますが力尽きていた時はすみません。長いお話では無いので待っていてください。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる