上 下
7 / 26

平凡透子の非凡な日常 中編

しおりを挟む
 恋愛対象として一緒にいたい。

 そう言われて、正直なところ、意味がわからなかった。

 自分の容姿は可もなく不可もなく、いたって普通だ。外見にこだわりはないので、動ける体さえあればいいと思っている。美醜びしゅうがわからないわけではない。現に、私の何を気に入ったのか不明な四人は、綺麗だと思う。

 四人は世間で言うところの、セレブと言われる上流階級の人間。それもトップクラスだ。お金に地位に容姿に恵まれた四人は、それこそ伴侶など選び放題だろう。それなのに、私を好きなのだと言う。

 私は物心ついたときにはすでに両親はなく、国の育成機関で訓練を受けていた。ここで護衛を育てている。優秀な成績の者は、さらに上の機関で訓練を積む。幸い私は適性があったようで、十二の歳から任務を請け負うまでになっていた。十三でキメラ討伐とうばつのメンバーに任命され、十四では海上の護衛も出来るようになった。十六になる頃には、空も任せてもらえるようになった。その頃になると、私の認知度もだいぶ上がったように思う。

 私を好きだという四人に会ったのも、この頃だ。

 私の頭には、恋愛というカテゴリーがない。恋愛の意味がわからないと言うことではない。自分に当てはめることが出来ない。当てはまるとも思わない。私の日常は、死と隣り合わせ。他者の命を預かる仕事だ。自分の命をかえりみることもない。護衛対象の命が最優先だからだ。それ以外は、任務のために必要なことを覚える。例えば今回なら、派遣OLという立場なので、その会社の業務内容を行うための知識などが、それに該当がいとうする。

 ところで今回、この火の本国ひのもとこくでなぜ社会人の真似事まねごとをしているかというと、その理由は依頼内容にある。護衛対象に気付かれず、社内の護衛をして欲しいというもの。対象は五人。一人、数週間から数ヶ月の護衛だ。その人物の勤め先に派遣という形で潜入し、見守っている。夜間や会社の休日、次の派遣先へ移る合間に、いつも通り討伐に行く、という日々だった。

 火の本国に来て一年と少し。任務最終日となる本日、あの四人がやって来た。最終日とは言え任務中。ついでに四人も護衛する羽目になったが、仕方がない。就業時間の終わりと共に任務も終了となるのだが、終了間際に不穏な空気を感じた。いつも護衛対象を狙う者と空気が違う。四人の誰か、あるいはすべてを狙う者だと判断し、迅速に処理をする。なぜこんなことをしたのか、などは私の管轄かんかつではないので、警察にすべてお任せだ。

 気配を感じた時点で動かなかった理由は、単純に護衛対象から離れるわけにいかないからだ。自分を過信してはいけない。他に気配を感じないから離れて処理をしても大丈夫だろうなどとは考えない。世の中には上には上がいる。自分が感知できない敵が潜んでいないとは限らないのだ。

 人一人の制圧は、然程さほど難しいことはない。それでも四人は、私をめてくれる。私が四人の周囲にいないタイプの人間だから目に止まったであろうことは、想像にかたくない。それが、なぜ恋愛の方向へ進んだのかははなはだ疑問だ。好みなど人それぞれなのでとやかく言うつもりもないが、目か趣味か、どちらかは確実に悪いだろう。

 自分たちの持つスペックを理解して欲しい。

 そして私の生きる世界も。



 私がそっちの世界で生きられるはずがないのに。





*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

Blue Rose~傍役令嬢のアフターケア~

夢草 蝶
恋愛
 ある社交パーティーの場でたくさんの殿方を侍らせているロマンス小説のヒロインみたいな少女。  私は彼女たちを気にせず、友人たちとの談笑を楽しんだり、軽食に舌鼓を打っていた。  おや? ヒロイン少女が王子に何かを耳打ちしている。  何を言っているのだろうと眺めてたら、王子がびっくりしたように私を見て、こちらへやって来た。  腕を捕まれて──うぇ!? 何事!?  休憩室に連れていかれると、王子は気まずそうに言った。 「あのさ、ないとは思うけど、一応確認しておくな。お前、マロンに嫌がらせとかした?」  ・・・・・・はぁ?  これは、お馬鹿ヒロインによって黒歴史を刻まれた者たちを成り行きでアフターケアする令嬢の物語である。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...