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日向透子との出会い ~ジーンside~
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初めてトーコを見たとき、ふざけているのか、と思った。
シールド間を行き来する際、必ず護衛がつく。それは、自分が財閥の人間だからではない。シールドの外は、キメラという獰猛な生き物が生息しているからだ。キメラは人間だって餌にする。五回に一回くらいの割合で遭遇するため、遭遇率は高めだ。定期的に軍が間引いているが、護衛なしにシールドから出るなど自殺行為だ。
「今日は泊まりだから、留守を頼む」
爺は頭を下げ、心配そうに見つめている。シールドから出るときはいつもそうだ。
「日帰りではないからな。護衛たちも片道行けば休める分、危険も少ない」
一日で往復するより、護衛の負担がずっと軽くて済む。
「わかってはおりますが、心配なものは心配なのです」
そんな爺に苦笑して部屋を出た。
玄関を出ると、護衛隊長が頭を下げる。それに倣い、他の護衛たちも一斉に頭を下げた。
「若様、本日の道程は少々危険が伴います。先日目撃情報のあったキメラがまだ討伐されておりません。途中戦闘に入る可能性がありますこと、ご了承ください」
「ああ。頼んだ」
そう言って気付く。
「おい、あの小さいのは何だ」
屈強な男たちに混ざり、明らかに小さく華奢な者がいる。
「はい。彼女も護衛ですが」
「彼女?」
思わず隊長の言葉を遮ってしまった。シールドの外は危険だ。そして獰猛なキメラを何度も見たことがあるからこそ言える。女子供の出る幕ではない、と。男のように鍛えあげられた肉体を持っているならまだしも、平均的な女性より小柄に見える。
「若様、彼女は見てくれで判断してはいけません。今回、キメラが出る確率が非常に高かったため、彼女にお願いしたのです」
何だって?
思わず隊長の顔をマジマジと見る。隊長は苦笑した。
「信じられませんよね。ですが、彼女の戦いを見れば、ご納得いただけるかと」
結果から言って、私は彼女、トーコに惚れた。
移動中、何となく彼女が気になって窓から外を見るが、視界に彼女はいない。半分くらい進んだ頃だろうか。窓のすぐ外にいる隊長のところへ、彼女がやって来た。隊長に耳打ちをしている。隊長の顔色が変わった。隊長が私を見て、窓越しに声をかけてきた。
「若様。キメラがいるそうです」
「は?」
どこにいるというのか。いつもキメラとの戦闘になる前には、少し空気が変わる。それから間もなく、キメラの不快な鳴き声が聞こえ始めるものなのだが。
「第二隊!八時の方向に注意しろ!キラーボアが二体!対処を頼む!第一隊!十一時の方向にキメラ!私の合図でタリスマンを放て!」
言うや否や、彼女は一人、キメラがいる方角へ飛び出して行った。
ちなみにキラーボアは野生動物の中で、危険度がかなり高い大型の熊のような生き物だ。戦闘に慣れた者でも、油断をすれば命を落とす危険がある。タリスマンとはお守りのことではなく、対キメラ用の兵器の名前だ。
彼女がキメラの方へ姿を消して暫くすると、あの独特の空気を感じた。そして彼女が消えた方角の空で、何かが光った。それを見た第一隊隊長が声を上げた。
「撃てぇっ!!」
光の方へ、タリスマンが放たれる。見事命中したのだろう。キメラの断末魔が響いた。
「トーコ様、ホントにすげぇな」
誰の声だったのだろう。
通常、対キメラ用兵器であっても、一発で仕留めることは出来ない。タリスマンの射程距離に連れてくる際、かなりキメラの力を削いでいたようだ。キメラを目的の場所へ誘導すること自体が凄すぎる。
あまりのことに声も出せなかった。
呆然としている内に、彼女が戻ってきた。
「討伐完了です」
護衛隊長にそう報告した彼女と話がしたくて、窓を開ける。
「若様、窓を開けてはいけません。御身を軽んじてはなりませんよ」
「わかっている。少しだけだ」
護衛隊長は苦笑する。彼女がいるから危険はないと思っているのだろう。それ以上は何も言わなかった。
「トーコ、と言ったか。見事だ」
トーコは軽く頭を下げると、ありがとうございます、と言って隊列に戻って行ってしまった。その媚びない態度もまた好ましかった。
見た目だけなら、今まで出会った女性の中で、一番華がないと言える。
それなのに。
こんなにも眩しく感じるのは何故だろう。
*つづく*
シールド間を行き来する際、必ず護衛がつく。それは、自分が財閥の人間だからではない。シールドの外は、キメラという獰猛な生き物が生息しているからだ。キメラは人間だって餌にする。五回に一回くらいの割合で遭遇するため、遭遇率は高めだ。定期的に軍が間引いているが、護衛なしにシールドから出るなど自殺行為だ。
「今日は泊まりだから、留守を頼む」
爺は頭を下げ、心配そうに見つめている。シールドから出るときはいつもそうだ。
「日帰りではないからな。護衛たちも片道行けば休める分、危険も少ない」
一日で往復するより、護衛の負担がずっと軽くて済む。
「わかってはおりますが、心配なものは心配なのです」
そんな爺に苦笑して部屋を出た。
玄関を出ると、護衛隊長が頭を下げる。それに倣い、他の護衛たちも一斉に頭を下げた。
「若様、本日の道程は少々危険が伴います。先日目撃情報のあったキメラがまだ討伐されておりません。途中戦闘に入る可能性がありますこと、ご了承ください」
「ああ。頼んだ」
そう言って気付く。
「おい、あの小さいのは何だ」
屈強な男たちに混ざり、明らかに小さく華奢な者がいる。
「はい。彼女も護衛ですが」
「彼女?」
思わず隊長の言葉を遮ってしまった。シールドの外は危険だ。そして獰猛なキメラを何度も見たことがあるからこそ言える。女子供の出る幕ではない、と。男のように鍛えあげられた肉体を持っているならまだしも、平均的な女性より小柄に見える。
「若様、彼女は見てくれで判断してはいけません。今回、キメラが出る確率が非常に高かったため、彼女にお願いしたのです」
何だって?
思わず隊長の顔をマジマジと見る。隊長は苦笑した。
「信じられませんよね。ですが、彼女の戦いを見れば、ご納得いただけるかと」
結果から言って、私は彼女、トーコに惚れた。
移動中、何となく彼女が気になって窓から外を見るが、視界に彼女はいない。半分くらい進んだ頃だろうか。窓のすぐ外にいる隊長のところへ、彼女がやって来た。隊長に耳打ちをしている。隊長の顔色が変わった。隊長が私を見て、窓越しに声をかけてきた。
「若様。キメラがいるそうです」
「は?」
どこにいるというのか。いつもキメラとの戦闘になる前には、少し空気が変わる。それから間もなく、キメラの不快な鳴き声が聞こえ始めるものなのだが。
「第二隊!八時の方向に注意しろ!キラーボアが二体!対処を頼む!第一隊!十一時の方向にキメラ!私の合図でタリスマンを放て!」
言うや否や、彼女は一人、キメラがいる方角へ飛び出して行った。
ちなみにキラーボアは野生動物の中で、危険度がかなり高い大型の熊のような生き物だ。戦闘に慣れた者でも、油断をすれば命を落とす危険がある。タリスマンとはお守りのことではなく、対キメラ用の兵器の名前だ。
彼女がキメラの方へ姿を消して暫くすると、あの独特の空気を感じた。そして彼女が消えた方角の空で、何かが光った。それを見た第一隊隊長が声を上げた。
「撃てぇっ!!」
光の方へ、タリスマンが放たれる。見事命中したのだろう。キメラの断末魔が響いた。
「トーコ様、ホントにすげぇな」
誰の声だったのだろう。
通常、対キメラ用兵器であっても、一発で仕留めることは出来ない。タリスマンの射程距離に連れてくる際、かなりキメラの力を削いでいたようだ。キメラを目的の場所へ誘導すること自体が凄すぎる。
あまりのことに声も出せなかった。
呆然としている内に、彼女が戻ってきた。
「討伐完了です」
護衛隊長にそう報告した彼女と話がしたくて、窓を開ける。
「若様、窓を開けてはいけません。御身を軽んじてはなりませんよ」
「わかっている。少しだけだ」
護衛隊長は苦笑する。彼女がいるから危険はないと思っているのだろう。それ以上は何も言わなかった。
「トーコ、と言ったか。見事だ」
トーコは軽く頭を下げると、ありがとうございます、と言って隊列に戻って行ってしまった。その媚びない態度もまた好ましかった。
見た目だけなら、今まで出会った女性の中で、一番華がないと言える。
それなのに。
こんなにも眩しく感じるのは何故だろう。
*つづく*
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