禁じられた遊び

らがまふぃん

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禁忌

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 テレーゼ・レムは、有名な悪女だった。
 公爵家に生を受け、二人の男児を授かった夫妻は、女の子が欲しいと願い授かった子が、テレーゼだ。念願の娘を夫妻は可愛がり、二人の兄も妹を溺愛した。
 実際テレーゼは美しかった。
 淡い金の髪に、ピンクダイヤモンドのような大きな瞳、桃のように色付く頬に、苺のように熟れた小さな唇。まさに天使だった。
 蝶よ花よと育てられ、すべてを肯定されて育ったテレーゼ。
 しかし、事件が起こる。
 テレーゼが四歳のとき、誘拐された。
 公爵家は半狂乱で探し回り、二日後にテレーゼを見つけたときは、心臓が止まるかと思った。なぜなら騎士団に連れられて戻って来たテレーゼは、血塗ちまみれだったからだ。首を動かし家族を見つめるテレーゼに、生きていると喜んだ家族は滂沱ぼうだしながら、血塗れのテレーゼを抱き締め離さない。
 周りに促され、ようやく湯浴みに連れて行かれるテレーゼ。テレーゼの怪我ではないことに安堵したが、では何の血だと問う公爵に返ってきた言葉は、信じ難いものだった。
 「ご令嬢の側には、犯人のものとおぼしきものがありました」
 妙な言い方だ、と思った。
 「犯人がいたのか?そいつはどうした。ここへ連れて来い。八つ裂き程度で済ませはしない」
 公爵の言葉に騎士団長は首を振る。
 「ご令嬢はお一人で床に座っておりました。その側には、その、人の手足などが、ありまして」
 公爵は目を見開き愕然とし、夫人は口を押さえて青ざめる。
 テレーゼが血塗れであることから、その惨劇は、テレーゼの目の前で行われたことになる。攫われた直後にそれが起こったのかどうかはわからない。だが、少なくとも床の血溜まりが乾くほどの時間、そこにテレーゼはいたことになる。見つけたとき、すでにすべての血は乾いていたのだから。
 願うは、その場にいただけで、気を失っていて、何も見ていないのであればいいのだが。
 すべてを知るのはテレーゼのみ。
 だが、四歳の幼子に、詳細を語らせるなど酷だ。思い出させてしまう行為は避けるべき。そう公爵家が判断をしたため、この誘拐事件は有耶無耶となった。
 テレーゼが誘拐されたときに、門番と側にいたはずの侍女が役目を果たせなかったが為に起こった事件。門番と側付きの侍女が処分された。
 この誘拐事件を境に、テレーゼはあまり笑わなくなる。ただでさえ溺愛されていたテレーゼ。家族の過保護ぶりが、さらに加速した事件でもあった。
 テレーゼに笑ってもらうためなら何でもする。そんな家族たちの愛情が、テレーゼを悪女にした。
 世間でのテレーゼの悪名は、決して公爵家の耳には入らない。耳に入れたらとんでもないことになる。筆頭公爵家の権力は、王家をも黙らせる。そんじょそこらの一貴族など、ひとたまりもない。
 テレーゼは、禁忌の子となっていた。



*つづく*
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