箱庭の楽園

らがまふぃん

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8 優和2

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 優和ゆうわにとって、出会った瞬間から、フォスガイアは自分が仕えるあるじだと認識していた。自分が命を捧げるべき人、そう本能が言っていた。どんなに酷く扱われても、どんなに傷つけられても、優和は気にならない。側にいられるだけで、姿が見られるだけで、心が満たされていた。主を見つけた安らぎが、そこにはあった。
 「王様、王様、あの、はずかしい、です」
 「はっ、おまえでもそんな顔をするんだな」
 顔の血を舐め取られても、くすぐったいと無邪気に笑っていた優和。フォスガイアは不満だった。もう離れる理由はない。思う存分、愛していい。そう思うと、私を男として意識しろ、そんな欲望が抑えきれなくなった。随分身勝手だと自覚はある。
 今回のことはすべて、優和に甘えきっていた自分が招いたこと。離れない、離れられないとわかっていて、中途半端に優和を止め置いていた、優柔不断な自分の罪。王子妃候補の二人は、何とか無罪にしたい。それが無理でも、極々軽い罰で終わらせるつもりだ。
 奇跡を目の当たりにした衛兵たちは、興奮を隠しきれない。無駄だと思いつつ、箝口令かんこうれいを敷く。優和を抱き上げ、血塗ちまみれの服と一緒に隠すようにマントでくるむ。何事もなかったようにフォスガイアは優和を連れて自室に戻った。
 「来い、優和。その顔を洗ってやる」
 そう言って、フォスガイアも自身の血にまみれた服を脱ぎ捨てると、湯殿ゆどのへと向かう。後ろから優和が嬉しそうに着いてくるのが堪らなく可愛らしい。
 桶に汲んだお湯を、優和の頭からかけながら、顔の血を洗い流してやる。目をきつく閉じ、懸命に息を止めている姿に笑みが零れる。
 フォスガイアは優和の唇を、自分のそれと重ねた。
 優和は驚きに目を開く。なに、そう言おうとして口を開くと、今度は柔らかいものが口の中に入ってきた。互いが濃密に絡まり合う音が耳に響く。堪らず優和はきつく目を閉じる。勝手に口から漏れる声に戸惑う。
 どんなに酷く扱われても、どれだけ傷つけられても大丈夫だったのに。
 こんな感覚、知らない。
 息が苦しくなった頃、ようやくフォスガイアが離れる。
 涙で滲む目でフォスガイアを見る。
 「王様、王様、あの、はずかしい、です」
 フォスガイアは息を詰めた。元々美しい女性だ。それに艶がまとうと、こうも暴力的なまでの欲望を呼び覚ますのか。
 「はっ、おまえでもそんな顔をするんだな」
 目元が赤く染まり、誘うように潤む黒曜石の瞳。
 首筋に顔をうずめ、舌を這わせながら、濡れて張り付いた優和の服を脱がせていく。優和から息を詰める音がした。
 「今度はくすぐったいとは言わないのか」
 胸元にくちづけながら優和を見ると、真っ赤な顔で目をきつく閉じていた。
 「おうさま、おなかのところ、へんです」
 すがるようにフォスガイアの肩を掴んでいた手を、自身の下腹部に添えた。
 「ここ、へんです、おうさま」
 戸惑うようにフォスガイアへ視線を向ける優和が官能的すぎて、フォスガイアは夢中で優和を求めた。


*~*~*~*~*


 「兄上、ご相談があります。お時間を作っていただいてもよろしいでしょうか」
 フォスクロスは困ったように笑った。
 「いつか言われるんじゃないかと思っていたよ。喜ぶべきか悲しむべきか、迷うよ」
 何を言われるかわかっている、そんな口ぶりで席を立つと、ソファに腰を下ろす。
 「先延ばしにしても意味がないからね。今聞いてしまうよ」
 フォスガイアも座るよう促す。しかしフォスガイアは首を振り、そのまま深く頭を下げた。
 「兄上、どうか私を王族から外してください」


 *最終話につづく*
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