箱庭の楽園

らがまふぃん

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6 嫉妬

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 グラスライラ国には、三人の王子と二人の王女がいる。
 王太子はすでに結婚している。第二王子には、婚約者がいる。だが、第三王子はまだ婚約者が決まっていない。その座を狙って、貴族令嬢の熾烈な争いが巻き起こっていた。その争いに勝ち残り、最終候補に選ばれた二人の令嬢。
 一人は、ナーナル・スタシウム侯爵令嬢。もう一人は、ハノア・オルサルト侯爵令嬢。
 王子妃に相応しい家格と品格を備え、最終候補に残った。二人は王子妃教育を受けるために、王城に拠点を移している。この教育をより優秀に終えた者が王子妃となるのだ。二人は王子妃となるべく、日夜努力を惜しまなかった。
 そんな二人が、目撃してしまう。
 例えようのないほど美しい女性が、中庭で花を摘んでいた。一枚の絵画のように美しい光景だった。その様子を、愛しげに見つめる目。フォスガイアだった。
 二人は嫉妬に燃え上がる。あの女性の噂は聞いている。フォスガイアに冷遇されているのではなかったのか。こんなにも努力し続ける自分たちのところには、滅多に顔も出さないというのに、あの女性との時間は作れるというのか。してあの女性は、酷く知性が乏しいと聞く。
 ふざけるな。誰のために血を吐くような思いで努力していると思っている。こんな屈辱、初めてだ。王子妃に必要なものを何も持たず、ただ美しい見た目だけで愛されるなど、冗談ではない。
 一方的な、身勝手な感情が、二人を支配する。
 赦さない。愛されない王子妃など、御免被ごめんこうむる。誰もが羨む人生を歩むのは自分なのだ。そのための努力をして来た。あんな女に邪魔をされてなるものか。
 ナーナルとハノアは頷き合った。
 その選択こそが、すべての努力だけではない、家にまで影響を及ぼすことを失念していると、気付けなかった。
 あまりに短絡的で、愚かな選択。とても王子妃の最終候補に残った人物だとは思えなかった。なぜそれほどまで優和の存在を恐れたのか。誰も、のちの二人に問うても、答えはわからなかった。


*~*~*~*~*


 「こんにちは、お嬢さん」
 声をかけられ振り向くと、男が立って笑っていた。
 「こんにちは」
 優和ゆうわも挨拶を返す。
 「こんなところで何をしているのかな?」
 ゆっくり男が優和に近付く。優和は手に持った花を見せる。
 「これ、王様のお部屋に飾ろうと思いまして」
 うんうんと男は頷きながら、尚も優和に近付く。
 「ちょっと、一緒にあっちに行こう。もっと綺麗なお花が咲いているよ」
 肩に触れられそうになって、優和は走った。
 「チッ、この、待て!」
 すぐに追いつかれ、背後から羽交い締めにされる。優和はガタガタと震えた。
 王様との約束を破ってしまった。男に触れさせるなと言われたのに。捨てられる。自分は捨てられてしまう。
 「いやああああああ!王様、王様あ!助けてください、ごめんなさい、助けてええええ!」
 男は焦る。何もわからないから何をしても大丈夫と言われていたのに。話が違うではないか。
 「し、静かに、静かにしろっ」
 尚も暴れる優和から手を離し、持っていたナイフを振り上げた。
 「静かにしろよおおお!」
 ナイフが振り下ろされる瞬間、男と優和の間に何かがぎった。


 *つづく*
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