箱庭の楽園

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
6 / 9

6 嫉妬

しおりを挟む
 グラスライラ国には、三人の王子と二人の王女がいる。
 王太子はすでに結婚している。第二王子には、婚約者がいる。だが、第三王子はまだ婚約者が決まっていない。その座を狙って、貴族令嬢の熾烈な争いが巻き起こっていた。その争いに勝ち残り、最終候補に選ばれた二人の令嬢。
 一人は、ナーナル・スタシウム侯爵令嬢。もう一人は、ハノア・オルサルト侯爵令嬢。
 王子妃に相応しい家格と品格を備え、最終候補に残った。二人は王子妃教育を受けるために、王城に拠点を移している。この教育をより優秀に終えた者が王子妃となるのだ。二人は王子妃となるべく、日夜努力を惜しまなかった。
 そんな二人が、目撃してしまう。
 例えようのないほど美しい女性が、中庭で花を摘んでいた。一枚の絵画のように美しい光景だった。その様子を、愛しげに見つめる目。フォスガイアだった。
 二人は嫉妬に燃え上がる。あの女性の噂は聞いている。フォスガイアに冷遇されているのではなかったのか。こんなにも努力し続ける自分たちのところには、滅多に顔も出さないというのに、あの女性との時間は作れるというのか。してあの女性は、酷く知性が乏しいと聞く。
 ふざけるな。誰のために血を吐くような思いで努力していると思っている。こんな屈辱、初めてだ。王子妃に必要なものを何も持たず、ただ美しい見た目だけで愛されるなど、冗談ではない。
 一方的な、身勝手な感情が、二人を支配する。
 赦さない。愛されない王子妃など、御免被ごめんこうむる。誰もが羨む人生を歩むのは自分なのだ。そのための努力をして来た。あんな女に邪魔をされてなるものか。
 ナーナルとハノアは頷き合った。
 その選択こそが、すべての努力だけではない、家にまで影響を及ぼすことを失念していると、気付けなかった。
 あまりに短絡的で、愚かな選択。とても王子妃の最終候補に残った人物だとは思えなかった。なぜそれほどまで優和の存在を恐れたのか。誰も、のちの二人に問うても、答えはわからなかった。


*~*~*~*~*


 「こんにちは、お嬢さん」
 声をかけられ振り向くと、男が立って笑っていた。
 「こんにちは」
 優和ゆうわも挨拶を返す。
 「こんなところで何をしているのかな?」
 ゆっくり男が優和に近付く。優和は手に持った花を見せる。
 「これ、王様のお部屋に飾ろうと思いまして」
 うんうんと男は頷きながら、尚も優和に近付く。
 「ちょっと、一緒にあっちに行こう。もっと綺麗なお花が咲いているよ」
 肩に触れられそうになって、優和は走った。
 「チッ、この、待て!」
 すぐに追いつかれ、背後から羽交い締めにされる。優和はガタガタと震えた。
 王様との約束を破ってしまった。男に触れさせるなと言われたのに。捨てられる。自分は捨てられてしまう。
 「いやああああああ!王様、王様あ!助けてください、ごめんなさい、助けてええええ!」
 男は焦る。何もわからないから何をしても大丈夫と言われていたのに。話が違うではないか。
 「し、静かに、静かにしろっ」
 尚も暴れる優和から手を離し、持っていたナイフを振り上げた。
 「静かにしろよおおお!」
 ナイフが振り下ろされる瞬間、男と優和の間に何かがぎった。


 *つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...