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2 冷遇
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「優和、ほら、これも食べろ。痩せすぎだ」
「ありがとう、ございます、王様」
「だから私は王ではないと何度も言っている」
優和は首を傾げる。
「王様は、優和の王様です」
にこにこと笑う。
優和は見た目は十三、四くらいなのだが、幼い子どものようだった。見た目通りの年齢であればわかりそうなこともわからない。
フォスガイアは、深く溜め息をついた。
これは、ダメだ。早く自分から離れてもらわなくては。
優和を連れて帰ったのは、確かにフォスガイアの判断だ。優和も離れたがらなかった。
優和は、あらゆることをほとんど覚えられない。最初こそ周りも丁寧に接していたが、呆れることが多くなっている。年月が経つにつれ、優和は冷遇されるようになる。連れ帰ったフォスガイアが、冷たく扱うのだ。最初の頃の優しさなど、見る影もなくなっていた。周りは当然そう扱っていいものと思う。
「王様、お花をどうぞ」
書類を手に廊下を歩くフォスガイアを見つけた優和は、嬉しそうに駆け寄って花を差し出した。花を摘んだ手は、植物の汁や土で汚れている。周りは顔を顰める。
「いらん。汚い手で私に触るな。向こうへ行け」
優和は自分の手を見た。
「あ、あ、ほんと、優和の手、汚いです。今、洗ってきますね」
受け取ってもらえない花を一旦床に置いて、優和はパタパタと手を洗いに行った。
「片付けておけ」
置かれた花を拾うことなく、フォスガイアは去る。花は、メイドたちに片付けられた。
それでも優和は花を贈り続ける。一度も受け取ってもらえない。時には目の前で捨てられる。一日に二度三度と繰り返されるときは、机を叩いて大きな音を出す。驚いて目を潤ませる優和に、低く冷たい声で、邪魔だから向こうへ行け、と睨みつける。
「王様、今日、きれいなお花が咲きました。取ってはダメだと言われました。一緒に見たいです、王様」
「そんな暇などない」
「王様、虹っ。虹です王様。きれいですねぇ」
「うるさい。あっちへ行ってろ」
「王様、怖い夢を見ました。手を、つないで欲しいです、王様」
フォスガイアは返事をしない。
「王様、優和、りぼんむすびが出来るようになりました。見てください」
「うるさい!仕事の邪魔だ!出て行け!」
毎日毎日フォスガイアに笑顔を向ける優和。じゃれついては邪険にされ続ける日々。健気に慕い続ける優和に、同情する者もいる。それでもフォスガイアの手前、庇うことも出来ない。
もう少し優しくしてあげたらどうですか、と見かねた側近がいつかそう言った。その時のフォスガイアの射殺さんばかりの鋭い視線に、誰も何も言えなくなった。
「王様、ごめんなさい」
いつも最後にはそう言って、優和はとぼとぼと自室に帰る。そんな優和を見て、メイドたちは嗤う。
見た目は極上であったため、女性陣の嫉妬が凄かった。そんな見た目だけの存在に、心の底から安堵している。殿下に相手にもされない惨めな女だと。見た目だけは極上の存在をぞんざいに扱えることに、女たちは昏い悦びに浸る。
「どうやって殿下に取り入ったか知らないけれど、もう相手にもされていないのわからないのかしら」
「ホント、図々しいったらないわよね。こんなにも頭の悪い子に付き合わされる殿下の身にもなれっていうのよ」
どんなに嫌味を言われても、どんなに侮辱をされても、優和にはわからなかった。ただ、優和のことが嫌いなのだ、ということだけはわかった。
*つづく*
「ありがとう、ございます、王様」
「だから私は王ではないと何度も言っている」
優和は首を傾げる。
「王様は、優和の王様です」
にこにこと笑う。
優和は見た目は十三、四くらいなのだが、幼い子どものようだった。見た目通りの年齢であればわかりそうなこともわからない。
フォスガイアは、深く溜め息をついた。
これは、ダメだ。早く自分から離れてもらわなくては。
優和を連れて帰ったのは、確かにフォスガイアの判断だ。優和も離れたがらなかった。
優和は、あらゆることをほとんど覚えられない。最初こそ周りも丁寧に接していたが、呆れることが多くなっている。年月が経つにつれ、優和は冷遇されるようになる。連れ帰ったフォスガイアが、冷たく扱うのだ。最初の頃の優しさなど、見る影もなくなっていた。周りは当然そう扱っていいものと思う。
「王様、お花をどうぞ」
書類を手に廊下を歩くフォスガイアを見つけた優和は、嬉しそうに駆け寄って花を差し出した。花を摘んだ手は、植物の汁や土で汚れている。周りは顔を顰める。
「いらん。汚い手で私に触るな。向こうへ行け」
優和は自分の手を見た。
「あ、あ、ほんと、優和の手、汚いです。今、洗ってきますね」
受け取ってもらえない花を一旦床に置いて、優和はパタパタと手を洗いに行った。
「片付けておけ」
置かれた花を拾うことなく、フォスガイアは去る。花は、メイドたちに片付けられた。
それでも優和は花を贈り続ける。一度も受け取ってもらえない。時には目の前で捨てられる。一日に二度三度と繰り返されるときは、机を叩いて大きな音を出す。驚いて目を潤ませる優和に、低く冷たい声で、邪魔だから向こうへ行け、と睨みつける。
「王様、今日、きれいなお花が咲きました。取ってはダメだと言われました。一緒に見たいです、王様」
「そんな暇などない」
「王様、虹っ。虹です王様。きれいですねぇ」
「うるさい。あっちへ行ってろ」
「王様、怖い夢を見ました。手を、つないで欲しいです、王様」
フォスガイアは返事をしない。
「王様、優和、りぼんむすびが出来るようになりました。見てください」
「うるさい!仕事の邪魔だ!出て行け!」
毎日毎日フォスガイアに笑顔を向ける優和。じゃれついては邪険にされ続ける日々。健気に慕い続ける優和に、同情する者もいる。それでもフォスガイアの手前、庇うことも出来ない。
もう少し優しくしてあげたらどうですか、と見かねた側近がいつかそう言った。その時のフォスガイアの射殺さんばかりの鋭い視線に、誰も何も言えなくなった。
「王様、ごめんなさい」
いつも最後にはそう言って、優和はとぼとぼと自室に帰る。そんな優和を見て、メイドたちは嗤う。
見た目は極上であったため、女性陣の嫉妬が凄かった。そんな見た目だけの存在に、心の底から安堵している。殿下に相手にもされない惨めな女だと。見た目だけは極上の存在をぞんざいに扱えることに、女たちは昏い悦びに浸る。
「どうやって殿下に取り入ったか知らないけれど、もう相手にもされていないのわからないのかしら」
「ホント、図々しいったらないわよね。こんなにも頭の悪い子に付き合わされる殿下の身にもなれっていうのよ」
どんなに嫌味を言われても、どんなに侮辱をされても、優和にはわからなかった。ただ、優和のことが嫌いなのだ、ということだけはわかった。
*つづく*
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