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番外編
魅了魔法とエル様
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アリスを魔女と呼んだサーフィアを魔女にしてみました。
つかえねー魔女の出来上がり☆かと思いきや?
*∽*∽*∽*∽*
暗い部屋の中、女の不気味な笑いが聞こえる。
「これよ、これだわ」
外は降り出した雨が直ぐさま勢いを増し、窓を叩きつける。
「これでエリアストは私のものよ!」
稲光が、叫んだ女の顔を浮かび上がらせた。
*~*~*~*~*
魔女と呼ばれる存在がいる。魔女は魔法が使えるのだが、戦いなどで活用出来るようなものではなく、医療的なものを主としている。
だが、中には道を逸れる魔女もいる。
王女サーフィアは、魔女としても知られていた。
魔女は人々の希望であった。そのため、王家に魔女がいるというだけで、その代の王の求心力は格段に跳ね上がる。
の、だが。
サーフィアは数々の残念行動から、国民から困った子認定をされている。故に、現在の王家に向けられる目は、純粋に能力を評価されたもの。魔女がいて、その魔女が求心力を落とすなどあり得ないのだが、実際、そのあり得ないことが起こってしまっている状態が、今の王家だ。魔女に足を引っ張られつつも、高い水準の支持を得ていることは、今代の王と王太子の能力の高さを示す。
そして今夜の夜会でも、また魔女が足を引っ張る。
………
……
…
「さあエリアスト!わたくしに永遠の愛を誓うのよっ!!」
サーフィアが、筆頭公爵家嫡男エリアスト・カーサ・ディレイガルドに執着していることは、有名だった。
杖を向けられた瞬間、エリアストは顔を押さえて蹲る。周囲はどよめき、アリスは慌ててエリアストの側に膝をつく。
「エル様っ、エル様どうなさいましたっ?」
涙目になるアリスを、魔女サーフィアは嘲笑う。
「おーっほっほっほっほ!これでエリアストはわたくしのもの!さあ、エリアスト!わたくしのところへいらっしゃい!さあ!」
両腕を広げ、勝ち誇った顔で喜々として叫ぶ魔女サーフィア。アリスがその言葉に戸惑っていると、エリアストが顔を押さえた指の隙間から、アリスを見た。一瞬、エリアストの目が驚きに見開かれたが、その視線はサーフィアへと移る。
「そうよ、エリアスト、こちらへ来るのよ!」
瞳孔の開ききった魔女サーフィアが、鼻息荒くエリアストを急かす。
「残念だったわねぇ、アリス。わたくしの魔法で、エリアストはもうわたくしのもの。さっさとエリアストから離れへぶうううぅ!」
魔女サーフィアが吹っ飛んだ。壁に背中を強か打ちつけ、倒れて顔面を床に打ちつける。
「誰がエルシィの名を呼ぶ許可を与えた」
魔女はヨロヨロと顔を上げると、絶対零度の瞳が見下ろしていた。エリアストの側には、腰に手を回され、ピッタリと寄り添うアリス。まったくもっていつも通りの光景だ。
「な、何でよ?何で?!おかしいでしょう?!」
自分は間違いなく魅了魔法をかけた。間違いなく、自分の虜になるのに。
「騒がしい。黙れ。殺すぞ」
そこにはいつもと変わらないエリアストがいるだけだった。
何度も試した。魔法は間違えていない。それなのに、何故。
魔女の混乱を余所に、エリアストがアリスをいつも以上に熱く見つめる。
「ああ、エルシィ、何故だろう。今なら一瞬でわかる」
「ほぇ?」
頭だけでなく、顔中にもくちづけを落としていくエリアスト。周囲は半分以上が倒れ、残った者たちの顔は赤く、目のやり場に困っている。魔女は混乱から抜け出せない。
「エルシィが隣にいるのに眠るのがもったいなくてな」
熱い思いを告白するように、マシマシの色気でエリアストがアリスに迫る。
「夜な夜なエルシィの髪の本数を数えていた」
「ふえっ?」
色気たっぷりに吐く台詞ではない。色香にあてられていた者たちも、え?と正気に戻る。
「握れば何本あるかわかってはいたが、握らなくてはダメだった。だが今は」
エリアスト様が勝ち誇ったような顔をしております。
「見ればわかる」
怖あ。
「ええっ?本当に凄いですね、エル様っ」
えー?可愛い顔ではしゃぐところじゃないよ、そこ。
より熱烈になったアリスへの愛が止まらない。こんなところにいられないと、エリアストはアリスを抱き上げ、顔中にくちづけを落としながら帰って行った。
会場中は茫然としている。
少しして、王太子ディアンが動く。
魅了魔法は人心を操る禁忌の魔法。
サーフィアは、魔法を封じられ、生涯幽閉となった。
そう、魅了魔法は人心を操る禁忌の魔法。
だが。
僅かにでも魔法使用者への情がないと、その魔法は効かない。それどころか、情のあるものへの執着が増す。
僅かにも何の情も持っていないなど、あり得ないのだ。
本来なら。
そう、相手はあの、エリアスト・カーサ・ディレイガルド。
エリアストのすべては、アリスにある。
*おしまい*
つかえねー魔女の出来上がり☆かと思いきや?
*∽*∽*∽*∽*
暗い部屋の中、女の不気味な笑いが聞こえる。
「これよ、これだわ」
外は降り出した雨が直ぐさま勢いを増し、窓を叩きつける。
「これでエリアストは私のものよ!」
稲光が、叫んだ女の顔を浮かび上がらせた。
*~*~*~*~*
魔女と呼ばれる存在がいる。魔女は魔法が使えるのだが、戦いなどで活用出来るようなものではなく、医療的なものを主としている。
だが、中には道を逸れる魔女もいる。
王女サーフィアは、魔女としても知られていた。
魔女は人々の希望であった。そのため、王家に魔女がいるというだけで、その代の王の求心力は格段に跳ね上がる。
の、だが。
サーフィアは数々の残念行動から、国民から困った子認定をされている。故に、現在の王家に向けられる目は、純粋に能力を評価されたもの。魔女がいて、その魔女が求心力を落とすなどあり得ないのだが、実際、そのあり得ないことが起こってしまっている状態が、今の王家だ。魔女に足を引っ張られつつも、高い水準の支持を得ていることは、今代の王と王太子の能力の高さを示す。
そして今夜の夜会でも、また魔女が足を引っ張る。
………
……
…
「さあエリアスト!わたくしに永遠の愛を誓うのよっ!!」
サーフィアが、筆頭公爵家嫡男エリアスト・カーサ・ディレイガルドに執着していることは、有名だった。
杖を向けられた瞬間、エリアストは顔を押さえて蹲る。周囲はどよめき、アリスは慌ててエリアストの側に膝をつく。
「エル様っ、エル様どうなさいましたっ?」
涙目になるアリスを、魔女サーフィアは嘲笑う。
「おーっほっほっほっほ!これでエリアストはわたくしのもの!さあ、エリアスト!わたくしのところへいらっしゃい!さあ!」
両腕を広げ、勝ち誇った顔で喜々として叫ぶ魔女サーフィア。アリスがその言葉に戸惑っていると、エリアストが顔を押さえた指の隙間から、アリスを見た。一瞬、エリアストの目が驚きに見開かれたが、その視線はサーフィアへと移る。
「そうよ、エリアスト、こちらへ来るのよ!」
瞳孔の開ききった魔女サーフィアが、鼻息荒くエリアストを急かす。
「残念だったわねぇ、アリス。わたくしの魔法で、エリアストはもうわたくしのもの。さっさとエリアストから離れへぶうううぅ!」
魔女サーフィアが吹っ飛んだ。壁に背中を強か打ちつけ、倒れて顔面を床に打ちつける。
「誰がエルシィの名を呼ぶ許可を与えた」
魔女はヨロヨロと顔を上げると、絶対零度の瞳が見下ろしていた。エリアストの側には、腰に手を回され、ピッタリと寄り添うアリス。まったくもっていつも通りの光景だ。
「な、何でよ?何で?!おかしいでしょう?!」
自分は間違いなく魅了魔法をかけた。間違いなく、自分の虜になるのに。
「騒がしい。黙れ。殺すぞ」
そこにはいつもと変わらないエリアストがいるだけだった。
何度も試した。魔法は間違えていない。それなのに、何故。
魔女の混乱を余所に、エリアストがアリスをいつも以上に熱く見つめる。
「ああ、エルシィ、何故だろう。今なら一瞬でわかる」
「ほぇ?」
頭だけでなく、顔中にもくちづけを落としていくエリアスト。周囲は半分以上が倒れ、残った者たちの顔は赤く、目のやり場に困っている。魔女は混乱から抜け出せない。
「エルシィが隣にいるのに眠るのがもったいなくてな」
熱い思いを告白するように、マシマシの色気でエリアストがアリスに迫る。
「夜な夜なエルシィの髪の本数を数えていた」
「ふえっ?」
色気たっぷりに吐く台詞ではない。色香にあてられていた者たちも、え?と正気に戻る。
「握れば何本あるかわかってはいたが、握らなくてはダメだった。だが今は」
エリアスト様が勝ち誇ったような顔をしております。
「見ればわかる」
怖あ。
「ええっ?本当に凄いですね、エル様っ」
えー?可愛い顔ではしゃぐところじゃないよ、そこ。
より熱烈になったアリスへの愛が止まらない。こんなところにいられないと、エリアストはアリスを抱き上げ、顔中にくちづけを落としながら帰って行った。
会場中は茫然としている。
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そう、魅了魔法は人心を操る禁忌の魔法。
だが。
僅かにでも魔法使用者への情がないと、その魔法は効かない。それどころか、情のあるものへの執着が増す。
僅かにも何の情も持っていないなど、あり得ないのだ。
本来なら。
そう、相手はあの、エリアスト・カーサ・ディレイガルド。
エリアストのすべては、アリスにある。
*おしまい*
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