美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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番外編

人騒がせなクピド4

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 「わ、わ、わたくしが!この歳になっても、婚約者の一人もいないことを、何とも思いませんの?!なぜ、婚約者を選ばないのか、本当にわかりませんの?!」
 ハルケイス家に強制送還されたトノイアは、別れを告げたばかりで戻って来たトノイアに驚きつつ、戻って来てくれて嬉しい、と改めて歓迎された。当主たちも、有能な人材が戻ってくれたことに喜んでくれた。
 だが、モノウはトノイアの姿を見て、出戻った事情を聞いて、そう叫んだ。
 大人しいモノウが、顔を真っ赤に染めて大きな声を出した。そのことに、トノイアは驚いて何も言えない。そして、言われた内容に、頭が働かない。
 「ばか!ばかばかばかばか!トノイアのばか!」
 モノウはトノイアの胸を叩く。
 「お、お嬢、様」
 「どうしてよっ。どうしてわからなかったのっ」
 ボロボロと涙を零してトノイアを責めるモノウに、トノイアはどうしていいかわからない。
 「こ、こんな、こんな、取り返しのつかない、こんな、ひどいことに」
 モノウの嘆きは止まらない。トノイアの足を見て、酷くつらそうに顔を歪める。
 違う。トノイアのせいではない。自分が悪かったのだ。自分が素直にさえなっていれば。トノイアからの言葉を待つばかりで、行動を起こさず、離れていく彼を指を咥えてみているだけだった自分。自分はトノイアの性格をよく知っている。だから、たとえトノイアが自分と同じ気持ちであったとしても、彼の方から気持ちを打ち明けられるはずもなかったのに。
 「ばかばかっ。トノイア、トノイアッ。もう、トノイア、トノイアあぁ」
 それでも彼に甘え、彼を責めてしまう、弱い自分。彼の優しさの代償が、あまりにも大きすぎて。とても自分では抱えきれなくて。
 モノウはグズグズと泣き崩れた。
 わたくしは、トノイアに、何が出来るのだろう。
 トノイアは、モノウの前で膝をついて、おろおろするばかり。
 触れていいのか。泣き崩れるモノウに、自分が触れてもいいのだろうか。その華奢な肩を、抱き締めてもいいのだろうか。
 「お嬢様」
 その、涙は、どうやったら、止まる?
 「モノウ、様」
 久しく呼ぶことのなかった名を呼ぶと、モノウが驚いたように顔をあげる。その顔は、さらに真っ赤になった。
 「私、は、自惚れても、いいのですか?」
 そっと、零れる涙を掬う。
 「モノウ様。私は、もう、我慢をしなくて、よろしいですか?」
 壊れ物を扱うように、左手をモノウの右頬に添える。
 「トノイア」
 モノウが震える声で名を呼ぶと、トノイアはモノウを抱き締めた。
 片足の機能を失う程度であなたが手に入ったのなら、私はなんて幸運なんだ。
 トノイアは、最愛を抱き締めながら、仄暗い笑みを浮かべた。


 「でも、その、寂しい、わ」
 邸を出る話をしたとき、モノウ様はそう言った。
 少し頬を赤く染め、伏し目がちに言うモノウ様に、高鳴る胸を誤魔化すように、困った顔で笑う。期待、したくなる。しかしすぐに自分を戒める。
 モノウ様、いや、お嬢様は、ハルケイス家の一人娘。立派に伯爵家を盛り立ててくださる方が、婿入りしてくださる。自分ではない。分不相応な夢を見てはいけない。
 「ありがとうございます、お嬢様。時々、手紙を書いてもよろしいですか?」
 未練たらしい。
 僅かな繋がりを残しておきたくてうっかり出た言葉に、しまった、と思った。
 それなのに。
 「もちろんよ!でも、どうしても、出ていかなくては、ダメなの?」
 そんな顔をされたら、期待してしまう。もう、これ以上、あなたの側にいたら、自分が何をしでかすか、わからない。
 あなたを手に入れるために、あなたに何をしでかすか、わからないんだ。



*つづく*
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