美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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番外編

人騒がせなクピド3

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 「新しく入った使用人ね。前職はハルケイス伯爵家の従僕。ステップアップのために転職、らしいよ」
 ライリアストが紹介状をヒラヒラとさせながら、エリアストに言った。
 「らしい?」
 エリアストの眉がひそめられる。
 「ダラスが、転職理由をそう言ったけど本音じゃなさそうって」
 家令ダラスのこういう直感的なものは、大抵当たる。
 「目的がわかりませんね。探らせます」
 「試用期間は一年。そんなに時間かけないでね」
 「三日あれば充分だ」

*~*~*~*~*

 「へぇ。トノイアはハルケイス家の従僕だったんだね」
 「ハルケイス家って伯爵だよな。一人娘じゃなかったか?」
 「トノイア、婿にもらってもらえば良かったのに」
 「まさか!お嬢様には、想う方が、いらっしゃいますので」
 「あー、なるほど。好きな人が違う男と一緒にいる姿を見るのはつらいよね」
 「すっ、スキッ?!」
 「あれ?違うの?」
 「違わないだろ。どう見ても惚れてるよな」
 「その顔で否定されてもバレバレだよ、トノイア」
 「ぅぐっ」
 「でもなんでディレイガルド家なの?」
 「この短い時間でも、トノイアが貴族の最高峰であるディレイガルド家ここで働くのに申し分ないのはわかるけどさ」
 「若様の話とか聞いたら、ビビッちまうヤツ多いからなあ」
 トノイアの一瞬の表情を、彼らは見逃さなかった。
 「おい、まさか、若奥様に何かしようってんじゃねぇよな」
 「それは全力で排除させてもらうよ?」
 「ああ、命があるかないかは怪しいところだね」
 「ち、ちが、違いますっ、絶対に、誓ってあり得ませんよっ。その、えっと」
 トノイアはこっそり情報を集めようと思っていたが、これほど鋭い人たちに隠し事はムリだと、早々に諦めた。
 「若、様、の、ことを、知りたかった、です」
 三人は見合った。
 「若様の?それは、事と次第ではこの邸からは出せないなあ」
 「え?」
 「誰に頼まれたのかな。ハルケイス?別の誰か?」
 「若様の何を調べていた?調べてどうするつもりだったの?」
 「あ、いや、あの」
 「随分あっさりバラしたな。本当は他の目的があるんじゃねぇのか?」
 何を言ってもダメかもしれない。ディレイガルド、怖い。
 トノイアは涙目になり、震えながら訴えた。
 「本当に若様のことなら何でもいいから知りたかっただけなのです!お嬢様のお力になりたくて!申し訳ありません、申し訳ありませんでしたあっ!」
 三人はキョトンとした。
 「つまり、あれかな。ハルケイスの娘の想う人が若様で」
 「トノイアの想い人のお嬢さんのために、トノイアは何かしてあげようと思って」
 「ここで働きながら、若様の趣味や好みを調べて小娘に教えてやろうと考えた」
 「う、あ、は、はぃ」
 三人は深く溜め息をいた。

………
……


 「ふぅん。そういうこと。でも、どんな些細なことでも、この家内部のことを他家に漏らそうとしたことは看過出来ないね。ちょっとお仕置きをしてから、ハルケイスに返そうかな」
 三人の証言と、その裏を取る影からの報告で、トノイアの発言に間違いはないとライリアストは判断する。
 「人騒がせだよね。影の裏取りから、彼の行動はまったくもって無意味なものなんだけど、まあそこは本人たちに任せることだ。エリアスト、どうする?」



*つづく*
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