美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
49 / 72
エリアストとアリスの形編

しおりを挟む
 「威圧などしていない」
 「野生動物が完全に敵と認識している時の目なんですけど。アリス嬢を見るときはいつだってアリス嬢が砂糖菓子になるんじゃないかって心配なくらいの蕩ける激甘視線とのギャップが酷すぎるんですけど。もう完全に私を排除する気満々のオーラ全開じゃん」
 いつも通りのやり取りに、アリスはクスクスと笑う。
 「ああもう、本当に可愛いな、アリス嬢は。連れて帰りたいよ本当に。だからディレイガルドうるさい」
 「何も言っていない」
 「目がうるさい」
 そんな楽しい時間を過ごした。
 「さて、まだまだアイリッシュ殿とアリス嬢と過ごしたいけれど、そろそろお暇しようかな」
 そうララが言うと、レンフィが扉側に控える使用人に軽く頭を下げた。使用人は了承の意で頷くと、扉の外に声をかける。すると、次々と箱が運び込まれる。
 「アリス嬢、改めて、懐妊おめでとう。ささやかだけど、懐妊祝いを受け取ってくれるかな」
 「まあ。ララ様、お気遣いありがとうございます」
 「ふふ。生まれたらこんなものじゃないからね。楽しみにしていて」
 「まあ、ふふ。とても楽しみにしておりますわ」
 「どっちが生まれてくるだろうねぇ。双子だから両方かもしれないねぇ」
 「はい。何となく、男の子と女の子、両方のような気がしますの」
 「そうか!アリス嬢が言うなら間違いないね。名前は?もう決めているのかな。それとも生まれた瞬間の直感に従うのかな」
 「決めておりますわ。ね、旦那様」
 エリアストが頷いたのを見て、アリスは優しくお腹を撫でる。
 「男の子はノアリアスト。女の子はダリア。ノアとディア。そう呼んでおりますの」
 「ノアリアスト、ダリア。ノアにディアか。とってもステキじゃないか」
 キラキラの笑顔でそう言ったララに、アリスも嬉しそうに頷く。
 「ああ、私もアイザックとの子どもが欲しいなあ。アイザックに似たかあわいい子がいいなあ」
 レンフィは微妙な顔をした。アイザック様を可愛いと言えるのは、ララ様くらいですよ、と。

………
……


 「エルシィ、疲れていないか」
 ララたちが帰り、アイリッシュも自室へと戻ると、エリアストがアリスを膝に乗せた。
 「はい。たくさんの方々のお気遣いに触れることが出来て、改めてわたくしは幸せ者だと感じました」
 そう言って微笑むアリスに、胸が締めつけられる。
 愛しい人のお腹の中で健やかに成長をする我が子が、愛しくて堪らない。愛する人との子どもなのだから、それはもう堪らなく愛しいに決まっている。
 それなのに。
 アリスを抱き締める。
 「エルシィ、エルシィッ」
 アリスはわかっている。
 「エル様。いつか、申しましたこと、覚えておりますか?」
 エリアストが何を不安に思っているか。
 「“喜怒哀楽は、誰にでも向けられます。ですが、エル様。この愛は、エル様にしか、向けることが出来ません”」
 新婚旅行に行ったとき、エリアストが愚か者の所業に腹を立てたときだ。馬車に戻ってアリスに言われた言葉。とてもとても、幸せな言葉。
 「愛にも色々あります。親愛、友愛、家族愛。けれど」
 アリスは、そっとエリアストの頬に手を添える。
 「この愛は、唯一」
 「エル、シィ」
 泣きそうに歪むエリアストが、頬に添えられたアリスの手に自身の手を重ねた。
 「エル様が、たくさんの幸せを運んで来てくださるのです」
 慈愛溢れる眼差しが、エリアストを泣きたくなるほど優しく見つめる。
 「いや、エルシィ、それは違う」
 潤んだ空色の瞳がアリスを捉える。
 「幸せを運んで来てくれるのは、エルシィだ。私がどれだけ幸せか、見えたらいいのに」
 サロンから見える花が、優しく揺れていた。



*つづく*
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

氷の公爵と契約結婚したら、いつの間にか溺愛されていました 〜冷徹な夫が“絶対に手放さない”と言って離してくれません〜

ゆる
恋愛
「この結婚に愛は不要だ」 ——そう言い放ったのは、王国随一の冷徹な公爵・ヴァレリウス・フォン・アイゼンベルク。 辺境の子爵家の娘アドリアナ・ローランは、家の存続のために彼との政略結婚を強いられる。 冷たく距離を取る夫との結婚生活は、まるで契約のようなもの。 ——そう思っていたのに、いつの間にか状況は一変!? そんな中、アドリアナの実家ローラン子爵領で疫病が発生! 夫に頼るわけにはいかない——そう決意して故郷へ向かうが、そこには陰謀を巡らす貴族たちの罠が待ち受けていた……! 「お前は俺の妻だ。だから、もう一人で背負うな」 冷たかったはずの夫は、まるで別人のように甘くなり、時には公然と独占欲を隠さない!? 愛などない契約結婚だったはずが、いつの間にか溺愛されていました——! -

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

処理中です...