美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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エリアストとアリスの形編

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 「威圧などしていない」
 「野生動物が完全に敵と認識している時の目なんですけど。アリス嬢を見るときはいつだってアリス嬢が砂糖菓子になるんじゃないかって心配なくらいの蕩ける激甘視線とのギャップが酷すぎるんですけど。もう完全に私を排除する気満々のオーラ全開じゃん」
 いつも通りのやり取りに、アリスはクスクスと笑う。
 「ああもう、本当に可愛いな、アリス嬢は。連れて帰りたいよ本当に。だからディレイガルドうるさい」
 「何も言っていない」
 「目がうるさい」
 そんな楽しい時間を過ごした。
 「さて、まだまだアイリッシュ殿とアリス嬢と過ごしたいけれど、そろそろお暇しようかな」
 そうララが言うと、レンフィが扉側に控える使用人に軽く頭を下げた。使用人は了承の意で頷くと、扉の外に声をかける。すると、次々と箱が運び込まれる。
 「アリス嬢、改めて、懐妊おめでとう。ささやかだけど、懐妊祝いを受け取ってくれるかな」
 「まあ。ララ様、お気遣いありがとうございます」
 「ふふ。生まれたらこんなものじゃないからね。楽しみにしていて」
 「まあ、ふふ。とても楽しみにしておりますわ」
 「どっちが生まれてくるだろうねぇ。双子だから両方かもしれないねぇ」
 「はい。何となく、男の子と女の子、両方のような気がしますの」
 「そうか!アリス嬢が言うなら間違いないね。名前は?もう決めているのかな。それとも生まれた瞬間の直感に従うのかな」
 「決めておりますわ。ね、旦那様」
 エリアストが頷いたのを見て、アリスは優しくお腹を撫でる。
 「男の子はノアリアスト。女の子はダリア。ノアとディア。そう呼んでおりますの」
 「ノアリアスト、ダリア。ノアにディアか。とってもステキじゃないか」
 キラキラの笑顔でそう言ったララに、アリスも嬉しそうに頷く。
 「ああ、私もアイザックとの子どもが欲しいなあ。アイザックに似たかあわいい子がいいなあ」
 レンフィは微妙な顔をした。アイザック様を可愛いと言えるのは、ララ様くらいですよ、と。

………
……


 「エルシィ、疲れていないか」
 ララたちが帰り、アイリッシュも自室へと戻ると、エリアストがアリスを膝に乗せた。
 「はい。たくさんの方々のお気遣いに触れることが出来て、改めてわたくしは幸せ者だと感じました」
 そう言って微笑むアリスに、胸が締めつけられる。
 愛しい人のお腹の中で健やかに成長をする我が子が、愛しくて堪らない。愛する人との子どもなのだから、それはもう堪らなく愛しいに決まっている。
 それなのに。
 アリスを抱き締める。
 「エルシィ、エルシィッ」
 アリスはわかっている。
 「エル様。いつか、申しましたこと、覚えておりますか?」
 エリアストが何を不安に思っているか。
 「“喜怒哀楽は、誰にでも向けられます。ですが、エル様。この愛は、エル様にしか、向けることが出来ません”」
 新婚旅行に行ったとき、エリアストが愚か者の所業に腹を立てたときだ。馬車に戻ってアリスに言われた言葉。とてもとても、幸せな言葉。
 「愛にも色々あります。親愛、友愛、家族愛。けれど」
 アリスは、そっとエリアストの頬に手を添える。
 「この愛は、唯一」
 「エル、シィ」
 泣きそうに歪むエリアストが、頬に添えられたアリスの手に自身の手を重ねた。
 「エル様が、たくさんの幸せを運んで来てくださるのです」
 慈愛溢れる眼差しが、エリアストを泣きたくなるほど優しく見つめる。
 「いや、エルシィ、それは違う」
 潤んだ空色の瞳がアリスを捉える。
 「幸せを運んで来てくれるのは、エルシィだ。私がどれだけ幸せか、見えたらいいのに」
 サロンから見える花が、優しく揺れていた。



*つづく*
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