美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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没ネタ集

レイガード新王即位編幻の10話

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 最初に呼び止めたときに無視をされたのだ。それは聞く気がないということ。それでも諦められないなら、日や時間を改めなくてはならない。格上の相手なのだ。自分の都合を押しつけるなど、あってはならない。
 彼らは何もかもを間違えた。
 エリアストの噂は恐ろしいものであったが、実際目の当たりにした実物との差に、必要以上に心が緩んでしまった結果なのだろう。だからと言って、貴族のルールを忘れた振る舞いは、愚かとしか言いようがない。
 ディレイガルドの動向を見張る者からの報告を受けながら、ディアンは現場に急いだ。
 見張る者とは、王家の影とも言うべき存在。高い隠密機能を身に付けた、国家の切り札的存在。なのだが、ディレイガルドにはバレている。そして黙認されているだけだ。但し、その姿を視認出来るギリギリまで離れていることが条件だ。何かの契約を交わしたわけではないが、そのラインを超えようとすると、見るのだ。それ以上近付くな、と。だが、ディレイガルドの側に第三者がいるときは別だ。愚か者を破滅させる証拠に使えることもあるため、近付くことを容認する。
 そうして衛兵に扮した影から報告を受けたディアンが駆けつけると、報告通りの男女二組がいた。全身ずぶ濡れになった女に、エリアストは剣を突きつけている。
 「ディレイガルドの。話は聞いた。その上で、剣を収めてくれ」
 エリアストはゆっくりディアンを見た。
 ディアンはブルリと震えた。
 恐ろしい。確かに恐ろしいのだが。
 ディアンはそんな場合ではないにもかかわらず、見惚れてしまった。
 温度のない、その冷徹な目に。
 「旦那様」
 ディアンが見惚れていると、エリアストを挟んだ向こう側から、ディレイガルドの護衛に護られたアリスが声をかけた。
 エリアストはすぐにアリスを向く。
 「どうした、エルシィ」
 アリスは穏やかに告げた。
 「陛下に何かお考えがあるご様子」
 アリスがゆっくりエリアストに近付くと、エリアストは剣をディアンに放り投げた。同時にアリスに駆け寄ると、愛しく抱き締める。そして頭に、顔中にくちづけながら、エリアストは落ち着きを取り戻していく。
 一方剣を放り投げられたディアンは、突然のことに慌てつつ、柄の部分を上手にキャッチ。思わず安堵の息を吐く。
 剣で怪我しなくて良かった、の息ではない。
 ディレイガルドの持ち物は、大袈裟ではなく、すべてが国宝級。護衛に与えたものすらそうだ。いや、少し語弊がある。アリスを守るためのものは、だ。アリスにつく護衛は、万が一などあってはならない。故に、最高級の装備を与えられる。身につけているものは、軽く、しなやかで丈夫。動きが阻害されることなどあってはならない。そして、たとえ千の敵に囲まれても、剣一本で戦い抜ける、そんな規格外の装備。
 そんな剣が、放り投げられたのだ。それが地面に落ちたところで傷つくことなどないだろうが、地面に落とすことが問題だ。アリスを守るものだから、それほどのこだわりを見せる逸品。だが、アリス本人の前ではエリアスト的には風の前の塵に同じ。しかし、ディアンにとっては、国宝級もさることながら、アリスを守るものを落とすことが恐ろしかったのだ。



*つづく*
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