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レイガード新王即位編
幕間 ~どぅねあつぇると、できる子~
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「ネイト、気付いたか」
サロンへと案内された要人たちの中、シュヴァルタイン帝国皇帝リッヒツェルトは、第四皇子ドゥネアツェルトに耳打ちをする。
「え?」
ドゥネアツェルトが何の話かと目を瞬かせると、リッヒツェルトは呆れたように溜め息を吐いた。
「まったく。いくら皇位継承順が高くないからと、少しのんびりしすぎだ」
さらにドゥネアツェルトに近付き、より声を潜める。
「何かあったようだ。新王が席を外す直前、衛兵たちが何かのサインを送っていた」
まったく気付かなかった、とドゥネアツェルトは驚きの表情を父であるリッヒツェルトに向けた。
「カーレインドの資産家がいない。何があったのかはわからんが、ディレイガルドに関することのようだ。一人、この部屋の護衛にディレイガルドの護衛が混じっている。それが私たちを見ている」
通常であれば、直接ディレイガルドの側にいる者以外、ディレイガルドの護衛であることすら気付かせない。それほど、隠密に長けている。だが、シュヴァルタインにはサインがバレていると踏んだ護衛は、ならば、ディレイガルドが関わっているから静観していろ、とあえてわかるようにしたのだろう。周りに溶け込むような気配ではなく、明らかに異質な空気を纏い、リッヒツェルトを見つめる、という行為によって。
「ディレイガルドの危険性を目の当たりに出来ないことは残念だが、触らぬ神に、とやらだ。おとなしくしていろよ」
苦笑いをするリッヒツェルトに、ドゥネアツェルトは少し首を傾げる。
「あの、エリアスト殿ですか?」
「恐らく。当主は会場にいたからな。十中八九、息子だろう」
そう頷くと、ドゥネアツェルトは顔を覆った。
「ううううぅ、ホントカッコイイ」
恋する乙女のような反応に、リッヒツェルトは呆れた目を向ける。
「おまえの見た目と中身の違いが本当に残念だよ」
見た目だけなら、皇太子のヴァイアツェルトに次ぐ精悍さを持っているというのに、如何せん中身がわんこなのだ。だが、帝国では兄姉からは可愛がられ、弟妹からは懐かれている。兄弟姉妹の中で、一番愛されているのは間違いなくドゥネアツェルトだ。
「父王、エリアスト殿とは会話はしましたが、仲良くまではなれませんでした。ですが、カルセド殿とは親友になれました」
この国の第三王子、いや、第二王弟か。悪くはないが、何があったのだろう。
「カルセド殿か。そんなに話が合ったのか」
「私の話をとてもよく聞いてくれたのです。エリアスト殿のことをいろいろいろいろ」
「そ、そうか。何かディレイガルドのことで収穫はあったか?」
「うーん。私が一方的にずっと喋っていましたね、そういえば」
「おまえ」
「あ、でも、エリアスト殿の話をしている間、ずっと顔色が悪かったです」
親友の顔色が悪いことに気付いていたのに、ずっとディレイガルドの息子の話をしていたのか。なかなか鬼畜だな。だが。
「ほう。息子との間に何かがあったようだな。何故顔色が悪くなるのか聞いてみたか?」
「いいえ」
「おまえ」
「あ、でも、“ディレイガルド小公爵殿と仲良くなりたいなら、絶対に小公爵夫人への対応を間違えてはいけませんよ”とアドバイスをもらいました」
なるほど。息子は妻が逆鱗であり趣味嗜好である可能性が高いことはわかっていたが、確定だな。前王や新王、周りの態度からして、この王の交代劇は、少なからずディレイガルドが関わっているな。息子の妻が鍵か?とにかくヴァイアツェルトには、息子の妻を注視するよう伝えておくか。
リッヒツェルトが少し思案していると、ドゥネアツェルトが嬉しそうに呼ぶ。
「父王父王、エリアスト殿の奥方に挨拶しようとしただけで叩かれました。凄く痛かったし怖かったけど、エリアスト殿に構ってもらえました」
見せられた手が腫れている。
え?挨拶しようとしただけでソレ?どんな叩かれかたしたの?それ、骨に異常ないよね?嬉しいの?この子、そういう属性?
正確には、挨拶しようとアリスの手に触れようとして、なのだが、些細な違いとしておこう。
「カルセド殿に言ったら、“五体満足なだけ我々よりマシだな”って呟いていたなあ、そう言えば」
「おまえ?!」
今までで一番重要な情報言ったよこの子!やっぱりこの交代劇は、ディレイガルドが思いっきり噛んでるじゃん!
*本編につづく*
こういう子が、意外と重要な情報を持っていたりします。
引き続き本編をお楽しみください。
サロンへと案内された要人たちの中、シュヴァルタイン帝国皇帝リッヒツェルトは、第四皇子ドゥネアツェルトに耳打ちをする。
「え?」
ドゥネアツェルトが何の話かと目を瞬かせると、リッヒツェルトは呆れたように溜め息を吐いた。
「まったく。いくら皇位継承順が高くないからと、少しのんびりしすぎだ」
さらにドゥネアツェルトに近付き、より声を潜める。
「何かあったようだ。新王が席を外す直前、衛兵たちが何かのサインを送っていた」
まったく気付かなかった、とドゥネアツェルトは驚きの表情を父であるリッヒツェルトに向けた。
「カーレインドの資産家がいない。何があったのかはわからんが、ディレイガルドに関することのようだ。一人、この部屋の護衛にディレイガルドの護衛が混じっている。それが私たちを見ている」
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「ディレイガルドの危険性を目の当たりに出来ないことは残念だが、触らぬ神に、とやらだ。おとなしくしていろよ」
苦笑いをするリッヒツェルトに、ドゥネアツェルトは少し首を傾げる。
「あの、エリアスト殿ですか?」
「恐らく。当主は会場にいたからな。十中八九、息子だろう」
そう頷くと、ドゥネアツェルトは顔を覆った。
「ううううぅ、ホントカッコイイ」
恋する乙女のような反応に、リッヒツェルトは呆れた目を向ける。
「おまえの見た目と中身の違いが本当に残念だよ」
見た目だけなら、皇太子のヴァイアツェルトに次ぐ精悍さを持っているというのに、如何せん中身がわんこなのだ。だが、帝国では兄姉からは可愛がられ、弟妹からは懐かれている。兄弟姉妹の中で、一番愛されているのは間違いなくドゥネアツェルトだ。
「父王、エリアスト殿とは会話はしましたが、仲良くまではなれませんでした。ですが、カルセド殿とは親友になれました」
この国の第三王子、いや、第二王弟か。悪くはないが、何があったのだろう。
「カルセド殿か。そんなに話が合ったのか」
「私の話をとてもよく聞いてくれたのです。エリアスト殿のことをいろいろいろいろ」
「そ、そうか。何かディレイガルドのことで収穫はあったか?」
「うーん。私が一方的にずっと喋っていましたね、そういえば」
「おまえ」
「あ、でも、エリアスト殿の話をしている間、ずっと顔色が悪かったです」
親友の顔色が悪いことに気付いていたのに、ずっとディレイガルドの息子の話をしていたのか。なかなか鬼畜だな。だが。
「ほう。息子との間に何かがあったようだな。何故顔色が悪くなるのか聞いてみたか?」
「いいえ」
「おまえ」
「あ、でも、“ディレイガルド小公爵殿と仲良くなりたいなら、絶対に小公爵夫人への対応を間違えてはいけませんよ”とアドバイスをもらいました」
なるほど。息子は妻が逆鱗であり趣味嗜好である可能性が高いことはわかっていたが、確定だな。前王や新王、周りの態度からして、この王の交代劇は、少なからずディレイガルドが関わっているな。息子の妻が鍵か?とにかくヴァイアツェルトには、息子の妻を注視するよう伝えておくか。
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「おまえ?!」
今までで一番重要な情報言ったよこの子!やっぱりこの交代劇は、ディレイガルドが思いっきり噛んでるじゃん!
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